「地域の住民が無償で関わることに意味がある」
なぜ、保護司はボランティアで対象者に関わるのか。長谷川さんは、「地域の住民が無償で関わることに意味がある」という。
保護司を理解するためには、まず、保護観察官と保護司の役割の違いを知る必要があるという。長谷川さんは、保護司に対する報酬制の導入には反対の立場である。
「地域の一般住民が、自分の時間を使って対象者に向き合うことが保護司制度の一番のメリットです。仕事ではなく、ボランティアとして関わることで対等な関係をつくることができる。仮にもし私たちが報酬をもらっていたら、対象者の中には、口には出さなくても、どこかに『どうせ金目当てで、仕事でやっているんだろ』という気持ちになる人もいるのではないでしょうか。無償であることは、対象者との関係をつくるうえで大きな意味があるのです」
また、長谷川さんは専門職である保護観察官との違いにも注目する。保護観察官は、刑法を中心とした法学、福祉や心理などの専門知識をもつ。一方で、保護司は地域で暮らす『素人』ならではのよさがあるという。
「対象者のなかには、社会や地域への敵視や負い目をもっている人もいます。その時に、『地域で自分のことを心配して、相談に乗ってくれる人がいる』という安心感を与える。これは、保護観察官にはできないことです。
わからないこと、困ったことがあれば、専門家である保護観察官に相談をする。保護司は、今までの経験を生かして、普段の生活を支える。専門家ではなく、同じ地域の住民だからこそできることがあるのです」
予算をより確保をするなら対象者のために
「報酬議論を耳にするが、たとえば現在の実費弁償金が増えたところで保護司は増えない」と断言するのは、保護司歴12年の宮澤進さん(41歳)である。
宮澤さんは、独立型社会福祉士事務所「NPO法人ほっとポット」の代表理事として、ホームレス状態にある人や貧困を主な理由として罪を犯した人の生活安定支援に取り組んでいる。報酬制導入は、長谷川さんとは異なる理由で反対の立場を取る。
「今回の事件を受け、仮に関連法改正を法務省が目指し予算をより確保したとしても、抜本的な問題解決は難しい。面接1回いくらといった報酬制を導入では、保護司は増えない」
そのうえで、予算をより確保するであれば、それは対象者のために使わなければならない、と提案する。対象者のなかには、就労の有無にかかわらず生活困窮している人が少なくない。生活困窮状態に置かれている対象者のため、面接で保護司自ら「今日から利用できる」具体的な支援を提供することはない。