2024年10月7日(月)

未来を拓く貧困対策

2024年7月9日

 「面接時に食品などの生活必需品や生活費としての一時金を公費から給貸与できれば、保護司と対象者との関係は変わるでしょう。報道では対象者が仕事を転々としていたことが強調されていましたが、就労あっせんだけが保護司の活動ではありません」

 宮澤さんは、「就労による社会復帰を急かせる社会」に警鐘を鳴らす。

 「生活安定そのものが困難となっている対象者に、『仕事の調子はどうか。なぜ辞めたのか。なぜ続かないのか』と質問すればストレスになる。多くの困難に苦しむ当事者からすれば、どんなに優しい姿勢や言葉でなげかけても、その面接は苦痛の場に変わってしまうだろう。

 それよりも、さまざまな不安や不満に耳を傾け、『定期的に自分の話を聞いてくれる人がいる』『具体的に生活安定につながる専門的なアドバイスがあった』と“当事者”である対象者が前向きに感じた時、それは“結果”として、本人自身による再犯防止につながっていくのでは」

自宅以外での面接を実現するためのハードル

 長谷川さんと宮澤さんが共に改善点として挙げるのが、面接場所の確保である。自宅を面接場所とする現在の運用は、時代にそぐわない側面もあるという。長谷川さんはいう。

 「農林水産業などの第一次産業が中心の『職住近接』の時代では、自宅を面接場所にしても大きな問題はありませんでした。しかし、現代は第三次産業が中心になって『職住分離』となり他人を家庭に入れることに抵抗を感じる人は多いでしょう。家族からの反対もある。若い世代にとっては自宅での面接をハードルと感じる人も多いでしょう」

 法務省も更生保護サポートセンターを用意したり、公共施設を借りて保護観察官を派遣したりとの対応は取っている。一方、保護司も喫茶店や公民館の会議室を借りて面接をする例もある。しかし、予約の手間や費用負担などの問題が残る。

 前回の記事で取り上げた総務省の報告書では、面談場所の確保は課題の一つとして挙げて詳細な分析をしている(総務省報告書「保護観察対象者との面談場所の確保支援」)。

 報告書では、市町村のなかには、「保護司だけを特別扱いはできない」と提供を拒否する例も挙げられている。こうした実態を踏まえ、法務省に面接場所の確保に向けた取組の推進を求めている。

 ただし、法務省に求めたのは「保護司や保護司会への支援」であり、法務省が主体となって面接場所を確保することまでは求めていない。これでは、実効性は心許ない。市町村に対する強い影響力をもつ総務省や、公民館などの公共施設を所管する文部科学省など、国の縦割り行政を超えた形で対策を講じることが必要といえよう。


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