本来の祭神は素朴な太陽神アマテルか
この木嶋社には、2つの大きな「謎」がある。ひとつ目は、社名に含まれる「天照御魂」をめぐる謎である。
神社の世界では、「天照」と書けばアマテラスと読まれるのが普通で、要するに伊勢神宮に祀られる太陽神で天皇家の祖神である天照大神(あまてらすおおみかみ)のことをさす。しかし、木嶋社ではこれをあえてアマテルと読ませていて、天照大神とは別の神格を祀っていることをにおわせている。
じつは、畿内には、木嶋社以外にも、社名に「天照=アマテル」という言葉を含む式内社が点在している。丹波の天照玉命(あまてるたまのみこと)神社(京都府福知山市今安)、大和の鏡作坐天照御魂神社(奈良県磯城郡田原本町八尾)、他田坐天照御魂神社(奈良県桜井市太田)、摂津の新屋坐天照御魂神社(大阪府茨木市西福井)などがそれである。
これらの神社の本来の祭神をめぐってはいろいろと議論があるが、アマテル=太陽の神格化、すなわち古代日本人が素朴に信仰していた太陽神としてのアマテルが祀られていたのではないかという説が注目される。つまり、アマテルとは、皇祖神アマテラスが形成される以前に日本各地で信仰されていた太陽神であり、プレ・アマテラスとでも言うべき神ではないか、という見方だ。
ここで木嶋社に話を戻すと、現在の祭神は先に記したように、天之御中主神ほか合わせて5神だが、歴史的にみると祭神名は必ずしも一貫していない。大正14年(1925)刊行の『特選神名牒』は祭神を天照国照天火明命(あまてるくにてるあまのほのあかりのみこと)とし、享保18年(1733)完成の出口延経『神名帳考証』は「天日神命(あまのひのかみのみこと)か」としている。いずれも、アマテルの系譜につながるローカルな太陽神である。こうしたことからすれば、木嶋社の本来の祭神は、その社名に含まれる「天照御魂」、すなわち素朴な太陽神としてのアマテルであったと考えるのが適当ではないだろうか。
そして、木嶋社が秦氏の氏神であったというのなら、そのアマテルは渡来人秦氏が奉じてきた太陽神であり、渡来系の信仰に由来する独特の神格を有していたと考えることができよう。