2024年7月30日(火)

インドから見た世界のリアル

2024年7月11日

ロシアから技術提供がないと武器を国産化できない

 モディ首相がロシアを訪問したのは5年前、ロシアがウクライナ侵攻を開始するより前だ。ロシアがウクライナ侵攻を始めて以降、モディ首相はロシア訪問を避けてきた。

 2022年には、モディ首相からプーチン大統領に直接、「今は戦争の時代ではない」と戦争終結を求め、インドがロシアのウクライナ侵攻に不満を持っていることも示した。しかし、プーチン大統領は、その苦言を聞き入れ、戦争終結してはいない。

 それなのに、モディ首相は、今、モスクワを訪問した。なぜか。それには大きく3つの理由があるものと思われる。

 一つは、インドが依然として、自らの安全保障をロシアに握られている実情がある。インドは、自らは世界各国と「非同盟」政策(または「全同盟」とも「戦略的自立」ともいう)を採用しているものと信じているが、実際には1971年の印ソ平和友好協力条約の第9条を見る限り、第三国に対する共同の軍事的対処の規定を持ったソ連の同盟国であった。その経緯があって、インド軍が保有する武器の約半分は旧ソ連製、ロシア製である。

 武器は高度な技術の塊であるが、乱暴な環境で使用するために頻繁に壊れ、修理部品がいる。弾薬を使うものも多い。ロシア製の武器を使う国は、ロシアからの修理部品と弾薬の補給に依存するのである。

 ロシアのウクライナ侵略後、ロシアは自ら武器を大量に消費し、インドに対して武器、修理部品、弾薬などを供給し難くなった。インドはロシア製の武器の部品100点以上を選定、国産化しようとして、ロシアから自立しようとした。ところが、そこで直面したのは、ロシアから技術の提供を受けないと、インドは国産化できないことである。

 つまり、ロシアから離れるためにはロシアの協力が必要、という矛盾した状況に陥ったのである。だから、モディ首相としては、現時点では、ロシアと協力しなければならないのである。

 インドが米国と兵站支援協定を結ぶ中、ロシアはインドに対して兵站支援協定を結びたいと願っている。そのため、インドとしては、兵站支援協定を結ぶ代わりに、ロシアから技術の提供をできるだけ多く勝ち取りたい。

 兵站支援協定が合意に近づいた今、プーチン大統領とのトップ会談によって、兵站支援協定とロシア製武器の技術提供を交換することを狙ったのかもしれない(そして結果からみれば、この交渉はうまくいかず、今回、兵站支援協定は結ばれなかった可能性がある)。


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