反中国は反ロシアではない
モディ首相がモスクワを訪問した理由の2つ目として考えられることは、その直前の7月初めにカザフスタンで行われた上海協力機構の首脳会談と関係があるかもしれない。モディ首相が欠席したからだ。
モディ首相は、今、中国の習近平国家主席との会談を極力避けている。2020年に、印中国境に、釘の出た鉄棒や青龍刀などで武装した中国軍が5000人も侵入してきて、インド兵を待ち伏せ、インド側だけで96人も死傷者が出る事態になった。それ以来、印中国境では、両軍がハイテク兵器を並べ立てて戦闘準備の体制をとる緊張状態のままだ。
だから、モディ首相はこの緊張状態が緩和しない限り、習氏と直接会うのを最小限にしている。特に上海協力機構に関しては、昨年インドが議長国になったときは、首脳会談をオンラインにした。そして今年は、モディ首相は欠席したのである。
ところが、上海協力機構には、他の加盟国もいる。特にロシアは、モディ首相の欠席に関して、快く思わないだろう。
インドが1971年に印ソ平和友好協力条約を結んだのは、中国対策の側面があった。インドがパキスタンと戦争になりそうな状態だったため、もし印パ戦争が始まった時に、中国がパキスタン側にたって参戦することを防ぎたかった事情がある。中国が参戦したら、ロシアがインド側に立って参戦するかもしれない、そういった状況をつくり、中国参戦を思いとどまらせようとした。
だから、インドはいまだに中国対策で、ロシアとの協力に期待している。中国の指導者に会いたくなかったとしても、ロシアの指導者に会いたくないわけではない。そこは分けておきたいのである。そこで、上海協力機構には欠席しつつ、モスクワには訪問した、というわけである。
もしトランプ大統領になったら
モディ首相が、今、モスクワを訪問したのには、インドと米国の関係があるものと思われる。11月の米大統領選挙でだれが勝つかは最後までわからないが、可能性としてトランプ政権が成立するかもしれない。
2020年までのトランプ政権時代、トランプ大統領はロシアに友好的との見方もあったものの、実際には、トランプ政権の対ロシア政策は、かなり厳しいものであった。このような事態を、モディ政権からみると、どうなるか。
もし、トランプ政権が再び成立してから、モディ首相がモスクワを訪問して、軍事協力の協定を結ぶようなことがあれば、トランプ政権はインドにも厳しく当たるかもしれない。しかし、今、モスクワを訪問しておけば、今後しばらく、モディ首相はモスクワに行かなくても、ロシアとの関係は一定程度維持できるし、米国を刺激することもない。だから、今、行っておいたほうがいいのである。