例えば、三洋のソーラー事業企画担当部長・脇坂健一郎氏は、「HIT」の高効率のカギとなっている成膜技術(基板の上に膜を貼る技術)について、「デコボコの基盤の表面に、あたかも雪を降らせるように、均一に、かつはがれないようにシリコンの膜を作っていかなければならない。しかも、"雪"をいかにして早く降らせるかがポイントになる」と話します。これは、同社の長年の工夫によって生まれた技術です。このように、買ってきた装置をそのまま使うのではなく、自らの手で工夫をほどこしていくところに、日本の強みがあります。
素材メーカーについても同じことが言えます。最新の生産技術を追い求めるセルメーカーがいたからこそ、そのオーダーに応えようとして、素材メーカーは世界トップクラスの技術力を身につけてきたのです。
しかし、前回(その1)の記事のとおり、日本勢の地位は危うくなりつつあります。欧米では逞しいベンチャーが育ち、アジアでは国策とリンクしながら多くの企業が進出してきているからです。日本がこれからも技術的優位を保つためには、何よりもセルメーカーが一歩先の技術を開発し続けることが必要です。そうしなければ素材メーカーも製造装置メーカーも育たないからです。セルメーカーが世界をリードし続けるためには、いったい何が必要なのでしょうか。
パネルメーカーがなすべきこと
「ソウルの仁川空港で路線図を見たら面白い。成田とは比べものにならないほど、世界中に直行便が飛んでいる。韓国のビジネスマンは、日本以上に、世界を飛びまわっている」。取材を進めていくなかで、某大手素材メーカー幹部から出た言葉がこれです。
半導体、液晶、さらには携帯と、様々な分野で、一度は世界トップに躍り出た日本メーカーが、ずるずるとその座を奪われていきました。デファクトを握る欧米専業ベンチャーと、圧倒的なコスト競争力と生産規模を誇るアジア企業の狭間で、多すぎる日本メーカーが苦戦する歴史が何度も繰り返されました。太陽電池産業でも同じ波が起きつつあります。
太陽電池で日本メーカーがリードし続けるためには、これまでの失敗の教訓を活かし、積極的な設備投資と、果敢な海外展開で、早くデファクトとシェアを握ることが必要です。太陽電池研究の第一人者、桑野幸徳氏(元・三洋電機社長、現・太陽光発電技術研究組合理事長)はこういいます。「太陽電池は地産地消の分散型電源。徹底的な現地化で世界展開を図った自動車産業を見習うべきだ」。
パネルメーカーと長年付き合ってきた周辺業界の関係者も異口同音にこう語ります。「日本メーカーは技術流出を恐れすぎる。すぐにコア技術は海外に移せない、日本人じゃないと生産が管理できない、という」。いくら押さえ込んでも、技術者の海外流出は止められません。果敢に海外展開しながら、常にその一歩先の技術を生み出し、アドバンテージを保っていくしかないのです。