2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年8月2日

 暗殺だけではなく、破壊工作も頻繁に起きている。核開発の中枢である中部ナタンズの核施設が爆破され、軍需工場や発電所などに対する放火事件も相次いだ。

 18年には、モサドがテヘランの秘密倉庫に侵入、イランの核開発文書を入手した。これについてはネタニヤフ首相自身が自慢げに発表している。

メンツ失ったハメネイ師

 今回の暗殺で一番衝撃を受けているのがイランだ。何よりも新大統領の就任式に招待した外国人の要人を自国内で殺されたからだ。

 イラン国内に外国工作員を野放しにし、防空網や治安態勢に大きな穴があることを内外に露呈してしまった。しかもハニヤ氏は事件の前日にハメネイ師と親しく面談していたこともあり、同師は完全にメンツを失った。

 同師は事件後、緊急の最高国家安全保障会議を開催。これにはペゼシュキアン大統領も出席した。

 ニューヨーク・タイムズによると、ハメネイ師はこの席で「イスラエルに直接報復するよう」軍や革命防衛隊に命じたという。同時に、イスラエルとの間で戦争状態になった場合に備えて、国防態勢を整備するよう指示した。

 イラン側の報復がどのような形になるのかはまだ不明だが、ハメネイ師が報復を命じたことはこれまでに2回ある。1回目は20年、革命防衛隊の対外作戦担当のコッズ部隊司令官ソレイマニ将軍が米軍のドローンで暗殺された事件だ。革命防衛隊は命令に従い、イラクの米軍基地に弾道ミサイルを発射、米兵約100人が負傷した。

 2回目は24年4月、シリア・ダマスカスにあるイラン大使館がイスラエルの空爆を受けた事件。イランは同13日に350発に上る弾道ミサイルやドローンをイスラエル本土に発射した。

 今回は殺害されたのがイラン人ではなく、支援する組織の人間だったことから、ヒズボラやフーシ派、イラクの民兵などがイランの代理でイスラエルを攻撃する可能性もある。

真の狙いは「停戦協議つぶし」

 イスラエルの狙いは何だったのか。ネタニヤフ首相はガザ戦争終結の条件として、ハマスの壊滅を挙げており、ハニヤ暗殺はその目的に合致している。

 ハニヤ氏はかつてガザの指導者だったが、19年にカタールに亡命し、そこから指揮を執ってきた。今回のガザ戦争では、子どもと孫をそれぞれ3人ずつイスラエル軍に殺され、姉も犠牲になった。

 イスラエルは暗殺について「戦略的な沈黙」を貫いているが、国内治安機関シャバクの長官はガザ戦争ぼっ発後、ハニヤ氏を暗殺すると語っていた。無論、ハマスに打撃を与えることは暗殺の目的の一つだが、「ネタニヤフの真の狙いは2つ。イランと米国にメッセージを発することだ」(ベイルート筋)。


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