2024年8月2日(金)

BBC News

2024年8月1日

ロシア政府とアメリカ政府などは1日、複数の受刑者を交換した。ロシアでの収監から釈放された人の中には、アメリカ人ジャーナリストのエヴァン・ガーシュコヴィッチ記者や、元米海兵隊員ポール・ウィラン氏、ロシアの反体制活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏らが含まれると、アメリカのジョー・バイデン大統領が発表。ガーシュコヴィッチ氏が所属する米紙ウォール・ストリート・ジャーナルも確認した。西側諸国からロシアに送還される中には、ロシア情報機関の関係者も含まれるとみられる。

トルコ国家情報機構(MIT)は同日、受刑者24人と未成年者2人の交換を仲介したと発表。アメリカ、ロシア、ドイツ、ポーランド、スロヴェニア、ノルウェー、ベラルーシの計7カ国がかかわるという。首都アンカラの空港にはロシア政府機が着地している。

トルコによると、未成年者2人を含む10人がロシアへ送還され、13人がドイツへ、3人がアメリカへ送還された。受刑者交換には、WSJのガーシュコヴィッチ記者、ウィラン氏のほか、ベラルーシで収監されていたドイツ国籍の雇い兵リコ・クリーガー氏、ロシアの反体制政治家イリヤ・ヤシン氏が含まれていたと、トルコ政府は確認した。

ロシアへ送還される未成年者2人とは、スロヴェニアで最近スパイ罪で有罪となったアルティオム・ドゥルツェヴとアンナ・ドゥルツェヴ夫妻の子供たちではないかとみられている。

トルコ大統領府は、受刑者全員が飛行機を降り、トルコ治安当局の監督の下で安全な場所へ移動したのち、それぞれの目的地へ向かう飛行機に乗ったと明らかにした。

WSJ はこの後まもなく「X(旧ツイッター)」で、「WSJ記者エヴァン・ガーシュコヴィッチは自由になった」と発表。同紙によると、ガーシュコヴィッツ記者のほか、アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのアルス・クルマシェワ記者と、昨年4月に収監された反体制派活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏も釈放された。

ガーシュコヴィッチ氏たちはアンカラでロシア政府機を降りたと、WSJは伝えた。

アメリカのジョー・バイデン大統領も続いて、声明を発表。「本日、ロシアで不当に収監されていたアメリカ市民3人とアメリカのグリーンカードを持つ1人がついに帰国する」と発表し、その名前を「ポール・ウィラン、エヴァン・ガーシュコヴィッチ、アルス・クルマシェワ、ウラジーミル・カラ=ムルザ」と明らかにした。

大統領によると、ほかにロシアで収監されていたドイツ人5人とロシア人7人を含む、計16人の釈放を交渉によって実現したという。

「中には不当に何年も収監されていた人たちもいる。全員が、想像もつかない苦しみと不安を耐え抜いた。この人たちの苦悩は今日、終わった」とバイデン大統領は述べた。

バイデン氏はさらに、「この厳しく複雑な交渉を通じて、この成果を実現するために協力してくれた同盟諸国に感謝する。そこには、ドイツ、ポーランド、スロヴェニア、ノルウェー、トルコが含まれる。信用できて頼りになる友人をこの世界に持つことが不可欠だと、強力に示す事例だ。我々の同盟関係はアメリカをより安全にしている」と感謝した。

カマラ・ハリス米副大統領は「X」で、「ロシアで不当に拘束されていた」人々の釈放を喜び、「この人たちのひどい苦難が終わり、間もなく家族に再会すると知って、私は大いに安心しています。不当に拘束されているか人質にされているすべてのアメリカ人が帰国するまで、大統領と私は、働くのをやめません」と書いた。

WSJによると、ロシアに帰還する情報関係者には、ドイツ当局がロシア連邦保安庁(FSB)の将校と特定したヴァディム・クラシコフ受刑者が含まれた。同受刑者はベルリンの公園でロシア反体制派を2019年に殺害した罪で、ドイツで終身刑を言い渡され服役していた。

ドイツ誌シュピーゲルによると、クラシコフ受刑者はドイツからアンカラへ向かった。

ロシアとアメリカだけでなく複数の国がかかわる大規模な受刑者交換の実現について、数日前から観測が飛び交っていた。ロシア国内で収監されていた複数の反体制派や記者が刑務所から移送され、移動先がわからなくなっていた。

ガーシュコヴィッチ記者は昨年3月、ロシア・エカテリンブルクで取材中、米中央情報局(CIA)のために情報を集めていた容疑で逮捕され、今年7月にスパイ罪で有罪となり、警備の厳しい刑務所での禁錮16年を言い渡されていた。アメリカ政府は、非公開で行われたこの裁判は「でたらめ」だと批判していた。

元米海兵隊員のウィラン氏は2018年12月に逮捕され、スパイ罪で拘束されていた。

アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのクルマシェワ記者も釈放された。同記者はアメリカとロシアの二重国籍で、昨年6月にロシア国内で、ロシア軍について虚偽情報を拡散した罪で逮捕された。

クルマシェワ記者の同僚たちによると、記者は昨年10月、ロシア中部カザンで家族のもとを訪れていた際に、「外国の代理人」と登録しなかったことを理由に逮捕された。

ロシアとイギリスの二重国籍を持つカラ=ムルザ氏は昨年4月、ウクライナでの戦争を批判したことに関連した罪で、禁錮25年の刑を受けた。

その後、シベリアの刑務所に収監されていたものの、移送され、さらに今年7月には刑務所の病院施設に移されたといわれ、その健康状態が懸念されていた。

ロシア反体制派政治家のヤシン氏は2022年6月に逮捕され、ウクライナ・ブチャでの住民殺害をユーチューブで話題にしたことがロシア軍に関する虚偽情報の拡散罪にあたるとされて、同年12月に禁錮8年6カ月の判決を受けていた。

ロシアの人権活動家オレグ・オルロフ氏も釈放されたという。

ロシアで受刑者がひそかに移送され行方が分からなくなるのは決して異例ではないが、複数の著名な受刑者が一斉に行方不明になるのは異例だった。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は7月30日、テロ罪などで死刑判決を受けていたドイツ国籍のクリーガー氏に恩赦を与えていた。

スティーヴ・ローゼンバーグBBCロシア編集長は、受刑者交換の交渉は水面下で長いこと続いてきたと説明。西側とロシアの間のチャンネルがまだ生きていることが明らかになったことと、ウラジーミル・プーチン大統領は複数の西側ジャーナリストを拘束することで、引き換えに望むものを手に入れたと、編集長は話した。

(英語記事 Russia to free Gershkovich and Whelan in major prisoner swap

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cv2gx8kp0r7o


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