2024年11月22日(金)

Wedge OPINION

2024年8月1日

 今年は史上最大の「選挙イヤー」である。

 米国や欧州連合(EU)、インド、台湾など世界各国で記録的な数の選挙が行われ、世界的に「偽情報」がこれまで以上に大きな関心を集め、その対策が活発にとられ始めている。

情報は武器にも凶器にもなる。偽情報に踊らされないためにはリテラシーの向上が欠かせない(VERTIGO3D/GETTYIMAGES)

 筆者は今年6月、ラトビアで行われた戦略的コミュニケーションをテーマにした国際会議に参加してきたが、中露の情報影響工作を念頭に、西側諸国としての戦略的ナラティブのあり方や情報空間におけるAIのリスクなど、極めて興味深い議論が行われていた。

 そもそも、偽情報に対する欧米諸国の脅威認識の高まりは、2016年、米国大統領選挙をめぐるロシアの干渉疑惑に端を発する。その後、20年の新型コロナウイルスの世界的蔓延や22年以降のロシアのウクライナ侵攻を通じて、偽情報が選挙のみならず、公衆衛生や戦局にも大きな影響を与える脅威として、世界的な注目を集めてきた。

 ただ、日本はこれまでに偽情報が選挙に大きな影響を与えたり、社会を分断したりする大きな危機に直面した経験がない。また、安全保障の分野においても、外国からの偽情報の拡散によって、深刻な脅威に晒されたという経験もない。これは、日本語が特殊な言語であるという「言語障壁」をはじめ、外国人に対して社会や組織が閉鎖的であること、国内の伝統的メディアに対する信頼度やアクセス率が依然として高く、外国メディアが入り込む余地がほとんどないことなどが要因として指摘されている。

 こうした諸要因が影響し、日本では偽情報への備えが十分ではなく、偽情報そのものに対する既存の法規制がないのが実情である。例えば、偽情報の拡散があっても、それらが人の業務を妨害した事実がない限り、偽計業務妨害罪には当たらない。また、偽情報の拡散を含む外国からの介入に対する法的手立てもとられてこなかった。

 20年代に入り、日本は欧米諸国に比し、偽情報対策で後れをとっており、対応が急務であるということが政府や専門家の間で徐々に認識され、具体的な対策が検討され始めた。そして、ロシアのウクライナ侵攻および東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出に関連し、偽情報が国内外の社会や世論形成に与えうる影響に対する危機認識が高まった。同時に、主要7カ国(G7)やEU加盟国の間で、偽情報対策における国際協力を推進する動きも活発化している。

 こうした流れの中で、日本政府は、22年12月に策定された「国家安全保障戦略」において、日本に対する外国からの偽情報の拡散に対抗すべく、偽情報などに関する情報の集約・分析と戦略的コミュニケーション力を強化する方針を打ち出した。具体的には、外務省、防衛省、内閣情報調査室、官邸国際広報室、国家安全保障局など、安全保障関連機関が中心となり、情報の収集・分析、偽情報に対する「デバンキング」(虚偽だと暴くこと)などのカウンター発信を行うこととなった。


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