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ジェイムズ・ウォーターハウス、BBCニュース(キーウ)
ウクライナは6日、国境を接するロシア・クルスク州への越境攻撃を開始した。「一体なぜ?」――。これが、一部の軍事専門家から上がった疑問だった。
ウクライナが戦場で抱える最大の問題はマンパワーだ。兵士の数で上回るロシアは、ウクライナ東部ポクロフスクにじりじりと近づいている。
そのため、数百人のウクライナ兵をロシアに送り込むこと自体、言ってみれば、状況にそぐわない動きだと見る向きもあるだろう。
しかし、誰もがそう受け取っているわけではない。
「明確な計画の一部」
「これは偶発的なものではない」と、戦争の専門家コスティヤンティン・マショヴェッツ氏はフェイスブックに投稿した。
「これは明らかに、一つの明確な計画の一部だ」
軍事アナリストのミハイロ・ジョロコフ氏も、この見方に同意する。ジョロコフ氏はBBCに対し、ロシアがウクライナ東部の前線から一部部隊を再配置せざるを得なくなったと語った。
「複数の公式報告からは、(ウクライナ東部)ドネツク州に投下されたロシアの滑空爆弾の数がはるかに減ったことが分かる」
「つまり、滑空爆弾を搭載した機体は今、ロシア領内の別の場所にいるということだ」
ウクライナがロシアの領土を占拠しようとしている可能性は極めて低い。しかし、今回のロシア領への侵入の目的がロシア部隊を引き寄せることだったとすれば、侵入からそれほど時間がたたないうちにそれが達成されつつあるのは確かだ。
戦地の近況も、一役買っているかもしれない。
ロシアはウクライナ北東部ハルキウ州への大規模な越境攻撃を開始した。
アメリカが5月に、ウクライナが米供与の兵器でロシア国内の標的を攻撃することを限定的に許可して以降、ロシアの前進スピードは鈍化しているようにみえる。
ウクライナはその後の3カ月間、同国北部スーミ州に対して、ロシア軍が同様の攻撃を試みるのではないかとの懸念を募らせてきた。
戦争がエスカレートすることを西側諸国が常に懸念していることを考慮すると、ロシア領内で今回の規模の作戦を行うことに、何らかの許可が与えられていた可能性は高い。
この攻撃について多くを語るウクライナの高官はほとんどいない。
ウクライナ大統領府は「ノーコメントだ、今のところは」と、BBCに述べた。
ロシア領内への同様の侵入は以前にもあったが、ウクライナの正規軍がこのようなかたちで投入されたのは初めてだ。
ロシアに「不意打ち」
国境の向こう側(ロシア側)では、さらに多くの情報が飛び交っている。
ロシアの軍事チャンネルは、今回の越境攻撃には数百人規模の部隊が参加し、いくつかのロケット弾やドローンによる攻撃があったといち早く報じた。
地元当局もまた、迅速に死傷者数や避難者数を発表した。近隣地域は家を追われた人々の受け入れを表明した。
そして、同地域では非常事態も宣言された。
クルスク州の町スジャ方面に部隊を再配置していることさえも、ロシア国防省は認めた。
ロシアの頂点に立つウラジーミル・プーチン大統領は、安全保障の責任者から公に説明を受けた。外務省報道官は、ウクライナの越境攻撃は「野蛮」な「テロリストによる」攻撃だと述べた。
こうした反応はまさに、ロシアが熟知しているはずの戦争で不意打ちを食らったことを示唆するものだった。
ロシアはつい昨日まで、ウクライナ軍を圧倒しながら着実に領土を獲得していた。
しかし今では、ロシアはこれまでとは別のことを考えなくてはならない。
クレムリン(ロシア大統領府)はすでに、今回の攻撃を、ウクライナでの戦争を続けるべき理由の証しだとしている。ロシアはいまだに、ウクライナ侵攻を「防衛」措置と定義している。
「クルスク州での出来事から得られるのは、答えよりも疑問の方が多い」と、前出の軍事アナリスト、ジョロコフ氏は示唆する。
もしウクライナが、北部へのロシアによる大規模攻撃を遅らせたり、さらには阻止したりできれば、ウクライナにとっては間違いなく、この作戦は価値があったということになる。
「ウクライナに戦争を持ち込んだ侵略者に圧力をかければかけるほど、平和は近づいてくる」と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例の演説で述べた。
「公正な力によって、公正な平和は実現される」
(英語記事 Why has Ukraine launched a cross-border attack on Russia?)