イスラエルは27日、レバノンの首都ベイルートで、イスラム教シーア派組織ヒズボラの「中央本部」を標的にした大規模な空爆を開始した。
レバノン当局によると、ヒズボラの拠点となっているベイルート南部ダヒエで複数の建物が攻撃を受け、少なくとも2人が死亡、76人が負傷した。
ベイルートで取材するBBCの記者は、複数の爆発が起きた後、付近の道路には逃げようとする人々が殺到して混乱状態となったと報告している。
イスラエル軍は、標的となったヒズボラ本部は「集合住宅の地下」にあったとしている。
この空爆はヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師を狙ったものだと、イスラエルとアメリカのメディアは伝えた。イスラエル政府関係者は、ナスララ師が攻撃を受けたかどうかを判断するには時期尚早だとロイター通信に語った。
「レッドラインを越えている」
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の顧問を務めるアリ・ラリジャニ氏は、イスラエルはイランにとっての「レッドライン」(越えてはならない一線)を越えていると国営テレビに語った。
イランはヒズボラを支援している。
ラリジャニ氏は「イスラエルの問題は、暗殺によって解決しない。(中略)抵抗勢力の指導者が暗殺されれば、ほかの者たちがその後任になる」と国営テレビで述べたと、ロイター通信は報じた。
在ベイルート・イラン大使館は、ダヒエへの空爆は「危険なゲームチェンジャー」だとした。
この空爆は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が27日、米ニューヨークで開かれた国連総会での演説で「ヒズボラを倒す」と誓ってから間もなく開始された。
レバノンのナジブ・ミカティ暫定首相は、停戦を実現しようとするアメリカ主導の取り組みをイスラエルが「気にも留めていない」ことを、空爆が示していると述べた。
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争を端緒とした、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘は1年近くに及んでいる。イスラエルは今週に入り、対ヒズボラ作戦を急激にエスカレートさせている。
レバノン当局によると、今週のレバノン南部と東部に対する空爆では800人近くが殺害された。その多くは民間人だという。
アメリカ国防総省は、同国はイスラエルによるダヒエ攻撃について事前の警告を受けていなかったとしている。
一方でヒズボラは、27日夕もイスラエルへの攻撃を継続。イスラエル北部の複数地域で空襲警報が鳴り響いた。
イスラエル軍はサフェド市で住宅1棟と車両に「ヒズボラのロケット弾が直撃したのが確認された」と発表した。
停戦要求に応じず
アメリカ、イギリス、欧州連合(EU)、日本など12カ国・地域は25日、21日間の停戦を直ちに開始するよう求める声明を出した。
アメリカ、オーストラリア、カナダ、EU、フランス、ドイツ、イタリア、日本、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イギリス、カタールが、共同声明に署名し、「外交による解決妥結へ向けた外交努力が行える余裕」を確保するため、直ちに21日間にわたり停戦するよう求めた。また、パレスチナ自治区ガザ地区での停戦も要求した。
しかし、ネタニヤフ首相は国連総会で、イスラエルはヒズボラへの攻撃を継続し、北部地域からの避難を余儀なくされた約7万人のイスラエル人を帰還させるという目的を達成すると強調した。
「ヒズボラが戦争の道を選ぶ限り、イスラエルに選択肢はない。そしてイスラエルにはこの脅威を取り除き、市民を安全に帰還させる権利がある。まさにこれこそが、我々が行っていることだ」と首相は述べた。
イスラエル首相官邸はその後、ネタニヤフ氏が訪米期間を短縮して帰国すると発表した。
レバノンのミカティ暫定首相は27日、国連での演説で、イスラエルの攻撃による死傷者があまりに多く、病院はもはや治療に対応しきれなくなっていると警告した。
「イスラエルは戦闘機やドローン(無人機)をレバノン上空に飛来させ、若者や女性、子供ら民間人を殺害し、民家を破壊し、過酷な人道的状況の中での避難を一般家庭に強いている。そうすることで、我々の主権を侵害している」
国連によると、レバノンではイスラエルによるエスカレーション(状況の激化)が始まる23日以前に避難した11万人に加えて、新たに9万人が家を追われた。
昨年10月7日にハマスがイスラエル南部を奇襲して約1200人を殺害、251人を人質に取って以来、中東全域で緊張が高まっている。イスラエルのガザ地区への報復攻撃ではこれまでに4万1000人以上が殺害されたと、ハマス運営のガザ保健省は発表している。
ヒズボラは同様にイランの支援を受けるハマスへの連帯を示し、イスラエルに対する攻撃を開始した。イスラエル北部やイスラエル占領下のゴラン攻撃に8000発以上のロケット弾を発射したほか、装甲車に対戦車ミサイルを撃ち込んだり、爆発物を搭載したドローンで軍事目標を攻撃している。
ヒズボラとハマスは共に、イスラエルやイギリスなどからテロ組織に指定されている。
イスラエルは23日の攻撃強化に先立ち、レバノン南部のヒズボラの拠点を標的とした数千回もの空爆で反撃していた。
(英語記事 Huge air strikes hit Beirut as Israel says it targeted Hezbollah headquarters)