2024年12月10日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年10月14日

 英国のタブロイド紙「デイリーメール」が、10月3日に中国の093型原子力潜水艦が今年8月21日に朝鮮半島西側の黄海で、中国軍が米英など西側の潜水艦を捕捉するために仕掛けた障害物に衝突する事故を起こし、酸素を供給するシステムが故障して、船長の薛永鵬大佐を含む乗組員55人(士官22人、士官候補生7人、下士官9人、船員17人)全員が死亡したと伝えている。タブロイド紙のこの種の話にはガセネタが多いことは読者も承知で、笑い話の類と受け止められるのだが、10月4日に英国紙「タイムズ」が「中国『米国と英国の船舶に罠を仕掛け自国の船員を殺害か』」と報じたために、にわかに信憑性のあるニュースとしてロイターなどが全世界に配信したため、大きなニュースとなっている。

(Homayon Kabir/Emevil/gettyimages)

YouTube発のフェイクニュース

 今回の情報の発信元はYouTubeアカウント「路德社(lude media)」が8月21日に極秘情報として投稿した動画が元になっている。路徳(Wang DingGang)氏は米国在住の華人ユーチューバーで、2017年3月にYouTube上に個人メディアとして路徳社を開設している。路徳社は中国に不利な虚偽情報と陰謀論を何度も投稿しており、信憑性が低い個人メディアと位置付けられている。

 このYouTubeの動画に反応したのが、潜水艦の情報を専門とする軍事評論家のサットン(H.I Sutton)氏だった。サットン氏は元連邦政府職員で、海軍専門誌「NAVAL NEWS」や雑誌「フォーブス(Forbes)」の常連の寄稿者である。

 「NAVAL NEWS」の執筆者紹介欄には、「HI サットンは、秘密主義で過小報告されている潜水艦について執筆し、波の下での戦闘に関与する珍しくて興味深い艦船や技術を探し求めています。潜水艦、能力、海軍特殊部隊の水中車両、そして変化する水中戦と海底戦の世界。これを行うために、彼は最新のオープンソース インテリジェンス(OSINT)と伝統的な防衛分析の技術および科学を組み合わせています」とある。

 OSINTとは、米国防総省(DOD)の定義によれば、諜報活動の一環として「一般に入手可能な情報を収集し、利用し、適切な対象者に普及させた情報」を得る行為であり、具体的には例えば、対象国の方針を割り出すために新聞記事や人事異動情報など合法的に入手できる資料を調べて、突き合わせの作業を丹念に行い、分析する作業のことを指す。

 路德社のサイトもOSINTの情報源の一つだったのだろう。サットン氏がX(Twitter)に投稿した時期から推測して、路徳氏の投稿動画を見てXに投稿したのではないだろうか。


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