2024年10月7日(月)

生成AI社会

2024年10月7日

さらに一体化が進む人と人工物の関係

 コンピュータによって認知を拡大している例は数多くあります。たとえば、調べものや考え事をするときです。かつてであれば、図書館に行って資料を集めたでしょう。あるいは紙に書いて考えを整理したと思います。

 しかし、いまは調べものがあるとすぐにインターネットで調べますし、少し考えればわかることでもすぐにインターネットにキーワードを打ち込みます。スマホを肌身離さずいつも手の届く範囲に置いていて、なにかあるとすぐに取り出します。インターネットが使えないと、あるいはスマホがないと、なんだか落ち着かない気分になります。

 私たちは、コンピュータを介して考えることにあまりに慣れ親しんでいるといえます。人と人工物とは一体になっています。

 私たちの命に直接的にかかわる医療・健康の領域でも、コンピュータを使った認知の拡大が行われています。

 医者の五感を頼りにした打診・触診・聴診・視診もいまだに重要ですが、医療の人たちも、生体情報モニタをみてバイタルサインをモニタリングしますし、内視鏡のCCD(超小型カメラ)を使って胃の中の病変をリアルタイムで拡大して観察します。

 音声認識のAIは、音声の波形のパターンをみることができるため、喘息や肺炎、新型コロナウイルス感染症にかかっているかを診断するのに役立ちます。

 がんの研究においても、機械学習による絞り込みによって、これまでほとんど研究されていないわずか23の遺伝子が、乳がんにかかったあとの経過を左右することがわかったりしてきています(※5)。

 AR(Augmented Reality)を使った研修や手術の補助なども行われています。管をどのように入れたらよいのかを疑似体験したり、切除する範囲をわかりやすく表示したりすることに使われています。

 一般の人も、ウェアラブルセンサーが身近になったこともあり、また予防医療の高まりという社会的背景を受けて、健康を害する前のデータを集めるようになってきました。特にスマートウォッチによって、心房細動のデータまで取得できるようになっています。

 直感だけでは自分の体の状態を把握しきれません。そのため、テクノロジーを駆使して体の状況をみていくのです。

 生成AIも、それを使うことで認知が拡大された例があります。オンラインチャットで顧客サービスを行っていた会社が生成AIを組み込んでみたところ、1時間あたりの問い合わせ平均解決件数や、担当者によるチャットの対応数がともに15%ほどあがり、チャットの平均応答時間も10%近く短くなりました(※6)。

 なにより新しく採用された不慣れな人の業務が大幅に改善され、離職率も下がりました。この会社では、新しく採用された人が仕事に慣れる前にやめてしまうことが課題でしたが、生成AIがチャットの回答を支援することで、離職を踏みとどまった人が増えたといえます。同時に顧客満足度もあがっています。

※5Shimizu, H., K. Nakayama (2019) “23 gene–based molecular prognostic score precisely predicts overall survival of breast cancer patients” eBioMedicine,(accessed 2024-05-31)

※6マカフィー、アンドリュー/ダニエル・ロック/エリック・ブリニョルフソン(2024)「生成AIの潜在力を最大限に引き出す法」『ハーバード・ビジネス・レビュー』2024年3月号、19-28

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