トイレの音を聞けば
故障を事前に察知できる
車両検査のスペシャリストたちは、プライベートで新幹線に乗ったときも車内の様子を観察している。「たとえば座席の上の荷物棚は、客室に入った瞬間に蛍光灯の反射できれいかどうかわかります。デッキでは配電盤がちゃんと閉まっているか、検査時のように叩いてみて打音確認したくなります。実際は叩きませんけどね」と根本さんは笑う。
小林さんは「トイレでは洗浄機能が正常に作動しているかどうかが気になります。新幹線に乗ったらまず、その気がなくてもトイレには行きますね」と話す。トイレの洗浄ボタンを押すと「ブシュッ」という独特の音がする。彼らはその音の微妙な違いで便器の故障を事前に察知できるという。「聴覚、視覚、触覚。触りながら目でも見る。これらの感覚を駆使して検査を行うことで、もしかしたら見逃してしまうような細かい不具合をいち早く見つけることができるようになります」(小林さん)。
検修庫から退出する際、屋内をあらためて見渡すとJR東海やSEKのスタッフたちが入り乱れて働いていた。床下機器の点検、屋根上ではパンタグラフの点検、車内では消耗品の交換などが行われている。業務内容は違っても、安全運行という目標は同じだ。
「旅客機整備の仕事の大変さに似たものがありますね」と傍にいたスタッフに話しかけたら、「見学にいらした方からよく言われます」と返された。その表情はどこか誇らしげだった。