2024年10月19日(土)

JAPANESE, BE AMBITIOUS!米国から親愛なる日本へ

2024年10月19日

 例えば、マイホームの購入目的は通常、(家族で)その家に居住することに加え、もう一つの側面として、その地域社会の一員になるためでもある。それが今は「投資目的」のためにマイホームを購入する側面が強くなっている。「Everything is finance」つまり、「生活全部が金融化」している社会になっており、米国に「middle class(中間層)」はいなくなった。いるのは、「ultra right」か「ultra left」という憂慮すべき状況である。日本にはこうなってほしくない。

認識すべき長所と短所
「世界1位」よりも重要なこと

 多くの日本人は社会の安定を求めているが、日本企業もいよいよ変革の時を迎えている。特に、「昭和的な価値観」の根強い会社や経営陣が二つの圧力に晒されていることが大きい。

 一つは、人手不足の圧力に常に晒されていることだ。しかも近年、日本では才能がある人の転職も盛んである。転職理由はさまざまだが、会社の労働条件や旧態依然の体質を好まない有能な社員は見切りをつけ、新しい会社を求めるようになっている。

 年配者からすると、「最近の若者は我慢が足りない」「自分の時はそんなことは許されなかった」という考えを持つかもしれない。だが、その考えを改めず、「昭和的な価値観」が支配する会社を変革する努力を怠れば、有能な人物からは選ばれなくなり、そうした企業は、ゆくゆくは淘汰される運命になるであろう。

 もう一つは、金利が徐々に上がっていくということだ。そうなれば、否応なく企業経営は方向転換をせざるを得ない。低金利の時代には、そこまで高い利益を上げる必要はなかったが、お金がより高価になった今、企業はより高い利益を生み出す事業戦略が必要になる。旧来型の発想から脱却した「経営戦略」が求められているのである。

 こうした状況の中でも安定を保ち、日本型のイノベーション・システムを確立させる道は必ずある。日本人が日本企業に適応した形でその仕組みをつくり上げていくべきであり、安易にシリコンバレー流や米国流を直輸入することは避けなければならない。

 日本の突破口は、「悲観と憂鬱」が蔓延している状況を打破することだ。

 21世紀で重要なのは、世界1位の経済大国になることよりも経済成長と社会の安定とのバランスをうまくとっていくことだと思う。経済的な生産活動と環境の持続可能性を両立させ、企業の進歩や人々の幸福を共存させることの重要性はいっそう増していく。

 この新しい道を見つけるための第一歩は、日本の長所と短所をトレードオフの関係として新たに認識することだ。日本人と日本経済にとって真に重要な目標に優先順位を付け、長所を伸ばし、短所を克服することに集中することが、日本の将来に道筋をつけるための戦略的な方法になるだろう。

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Wedge 2024年8月号より
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ

コロナ禍が明けて以降、米国社会で活躍し、一時帰国した日本人にお会いする機会が増える中、決まって言われることがあった。 それは「アメリカのことは日本の報道だけでは分かりません」、「アメリカで起こっていることを皆さんの目で直接見てください」ということだ。 小誌取材班は今回、5年ぶりに米国横断取材を行い、20人以上の日本人、米国の大学で教鞭を執る研究者らに取材する機会を得た。 大学の研究者の見解に共通していたのは「日本社会、企業、日本人にはそれぞれ強みがあり、それを簡単に捨て去るべきではない」、「米国流がすべてではない」ということであった。 確かに、米国は魅力的な国であり、世界の人々を引き付ける力がある。かつて司馬遼太郎は『アメリカ素描』(新潮文庫)の中で、「諸民族の多様な感覚群がアメリカ国内において幾層もの濾過装置を経て(中略)そこで認められた価値が、そのまま多民族の地球上に普及する」と述べた。多民族国家の中で磨かれたものは、多くの市民権を得て、世界中に広まるということだ――


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