最後の理由は、プログラムされた飛行経路の離発着地点に、韓国軍の基地が存在することだ。白翎島には海兵隊第6旅団が駐屯しており、離発着地点の近傍にも基地が存在する。加えて、周辺海岸には防御陣地が構築されており、極めて厳重に警備されている。
同島上空は軍事基地法によって無人機の飛行が禁止されているが、確信犯であったとしても、この地で飛行させることはできないだろう。
これまで挙げた3つの理由は、北朝鮮の発表が正しいという前提に立つが、今回は北朝鮮の発表に分があると言わざるを得ない。そこで、筆者は脱北者団体の有力活動家に質問をぶつけたところ、意味深長な答えが返ってきた。
「脱北者団体だけで行うことは困難です。政府機関が直接的、技術的に介入してきた可能性が大きいということです」
尹政権は強行姿勢を崩さないか
北朝鮮が示した状況証拠から、平壌上空に侵入して宣伝ビラを散布した無人機は、韓国軍ドローンの可能性が大きいと判断されるのではないか。だが、そこで考えなければならないことは、休戦協定違反という大きなリスクを冒してまで決行しなければならない作戦であったのかということだ。
10月3、9、10日の北朝鮮の動きを振り返ってみよう。
3日には金与正氏が韓国「国軍の日」の軍事パレードを非難する談話を発表し、7日から8日にかけて韓国を「敵対国家」と規定する憲法改正を行なった最高人民会議が開催された。一方で韓国の国家情報院は、8日から北朝鮮特殊部隊のロシアへの輸送が開始されたと公表している。
つまるところ、北朝鮮の非難談話や憲法改正、特殊部隊の派兵に対して、尹錫悦政権は韓国軍ドローンを使い、脱北者団体の仕業とみせかけた挑発行為で対抗したということだろうか。仮にそうだとすると、韓国の目的は北朝鮮指導部の混乱を狙った心理戦だったと考えることができる。
おそらく、この問題について韓国側が自らの作戦であったことを認めることはないだろうし、米軍が容認していたかも明かされることもないだろう。
しかし、この問題は、北朝鮮に対する強行姿勢を崩さない尹錫悦政権が休戦協定違反を犯してまで挑発し、北朝鮮がそれに武力で反撃するという、これまで想定されていたことと正反対のパターンで最悪な状況が生まれるかもしれないことを、我々に突きつけてきた。新たに政権に就く我が国の政治家たちには、このことを直視して政権運営にあたってもらいたい。