2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年10月30日

領土への執着

 しかし、「即時の停戦を支持する」が72%という数字は、「ロシアが占領したウクライナの領土も返還する」という条件を付けると、とたんにその割合は31%に下落し、逆に「反対する」との回答が60%に跳ね上がる。

 レバダ・センターの質問は「領土を返還した場合」という表現を使っており、ロシア国内の一部でみられる「東部はそもそも、ウクライナの土地ではない」とするような過激な主張に与せず、はっきりと占領地域がウクライナだという前提で質問を投げかけている。このような質問に対し、6割の人々は「領土返還を伴う停戦はNO」との意見を突き付けた格好だ。

ゆがんだロシア国内の世論

 なぜそのような態度になるのか。質問の「特別軍事作戦がもたらした肯定的な結果とは、具体的に何か」との質問への答えは、そのようなロシア国民の意識を理解するうえで有用だ。

 もっとも多かった答えは「領土の奪還、新たな領土の獲得、新たな人口の獲得」で26%だった。それに続くのが「ルガンスク、ドネツク人民共和国、ロシア語話者らドンバス住民の保護」(24%)「誰が(国際社会で)敵か、味方かを鮮明にした」(16%)などとなっている。

 この回答から鮮明にわかるのは、ロシア人の多くはこの戦争において「領土拡張」を最大の成果だとみているということだ。さらに、「人口増」も成果とみている。

 「領土」と「人間の数」が、国の力だと考える、帝国主義的なロシア人の思考が見て取れる。「敵と味方が鮮明になった」「ファシズム、ナチズムから(国を)守った」などとする回答が10%を超えているというのも、現在のゆがんだロシア国内の世論を浮き彫りにしている。

 このような回答からは、ロシアが外交交渉で領土を返すような可能性は限りなく低い実態が鮮明になる。突き詰めれば、ウクライナ人の犠牲が増える事態に心を痛める世論が一定数あっても、その犠牲よりも領土のほうが重要と多くのロシア国民が考えている事実がわかる。

成長が続く経済

 ロシア国内のこのような世論の背景には、大多数の国民が、実際には戦争による目立った影響を受けていない実態があるとみられる。最大の要因は経済だ。

 欧米諸国の制裁にも関わらず、中国やインド、トルコなどの国々がロシアの主要輸出産品の資源の代替輸出先となったことや、膨大な戦費の支出、旧ソ連地域などの迂回ルートを通じた制裁対象品の輸入ルートの存在などが経済を支えている。国内総生産(GDP)成長率は戦争が始まった2022年がマイナス1.2%だったが、23年は3.6%、今年も3.2%程度の成長が見込まれている。

 ロイター通信によれば、国民の実質賃金は昨年7.8%増加し、国内のサービス産業の成長も顕著だ。モスクワ市内では、週末になればレストランに人があふれているのが実態だ。


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