2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月11日

 米国の経済制裁は、第三国の企業もドル決済圏から排除してしまうので非常に強力だ。しかし、米国は経済制裁を乱発し過ぎて、イランのケースのように、その実効性が落ちている。伝家の宝刀を振り回しすぎてはいけない。

 しかし、そもそも安保理が承認したJCPOA(イランの核開発を抑制する合意)から、オバマ元大統領のレガシーをぶち壊そうとして一方的に離脱したのはトランプ前大統領であり、その結果、イランが核武装にあと一歩まで近づいてしまうという危機を作ったのはトランプ前大統領だったことは指摘しなければならない。

遅すぎたバイデンの交渉

 紛争の平和的解決という見地から、バイデン政権がJCPOAの復活を目指したのは正しかった。しかし、交渉に着手したのが政権発足1年後であり、イラン側は制裁再開後、必死に制裁の抜け道を開拓したため、バイデン政権が交渉を再開したときには既にイランは米国の制裁を迂回するメカニズムをほぼ構築してしまい、核合意再開交渉は、イラン側の強気の姿勢にバイデン政権が翻弄される一方となった。それゆえ、交渉再開が遅すぎたという点でバイデン政権には責任がある。

 イランの原油密輸出に中国やドバイ(UAE)等の銀行が関わっているという、社説の指摘は正しい。中国は、米国の経済制裁の影響を受けない様に米ドルとの関わりを一切絶ってイランとの取引に特化した崑崙銀行という銀行まで設立している。

 対中関係、対UAE関係の見地から米国が経済制裁に手心を加えているという指摘も正しいが、それはバイデン政権でなくても他の誰が大統領でも同様であろう。さらに、そもそもトランプ前大統領が再開した経済制裁自体が国際合意を無視したものであり、中国向けのイラン産原油を積み替えていると言われるマレーシアやインドネシア等、イランに同情的な国も少なくない。経済制裁再開は米国の横紙破りであり米国の威信を傷つけただけだった。

 なお、公平を期して言えば、バイデン政権は、昨年、イランに囚われていた米国人人質の解放のために韓国で凍結されていたイランの資産60億ドルの凍結を解除したが、昨年10月のハマスのイスラエル奇襲後再凍結しており、ハマスの奇襲と凍結資産とどういう関係があるのかという論点はあるが、それなりに是々非々に対応している。

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