2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月11日

 Economist誌の調査によれば、(イランの原油を密輸出する)フロント企業は、中国、香港、湾岸諸国、さらに西側諸国の銀行を利用しているが、これらの銀行の多くはイラン絡みの資金とは知らないでいる。昨年のイランの原油収入は500億ドルから700億ドルだった。

 この原油収入が具体的にどのように使われているのかは正確には分からないが、イランとその代理勢力の軍備増強に使われているのは間違いない。かかる状況下で米国が一旦失った金融的な抑止力(経済制裁)を回復させるのは容易ではない。

 イランの戦争マシーンを止めるためには中国か湾岸諸国で最もひどい制裁破りをしている銀行を罰するか、銀行が所在している国の政府に対して米国の制裁に従うように圧力を掛けなければならない。しかし、このいずれの方法も中国との金融戦争を激化させたり、アラブ首長国連邦(UAE)のような同盟国を取り締まらなければならなくなったりするので、米国はやりたくないだろう。

 結局、イランの振る舞いに影響を与えるというただでさえ困難な仕事がより困難になった。制裁を課したり解除したりという米国のツールや、米国と戦争になると脅かす選択肢は、米国にとりリスクをはらんでおり、米国が厳格に経済制裁を課すコストも過去に比べて高くなっている。

 これは、米国がイスラエルに対してイランのミサイル攻撃への報復を控え目にするよう説得しようとしても、イスラエルに与え得る見返りが小さくなったということも意味する。しかし、中東地域は、イスラエル・イラン間の戦争が勃発するのを許容できる程の余裕はない。

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抜きっぱなしの伝家の宝刀

 上記の社説が出た後、10月26日にイスラエルのイランへの報復として空爆が行われた。イスラエル軍は、イランのミサイル製造施設や地対空ミサイルシステムなどを攻撃したとしている。イランの再報復、そして紛争の中東全体への拡大の恐れが高まっている。

 社説は、バイデン政権が経済制裁レジームを緩め、イラン側が中国との関係を深めて経済制裁の無効化を図っている結果、イランの原油輸出が過去最大となっているとして、バイデン政権にイランに圧力を掛ける手段が無く、そのためイスラエルが過剰な対イラン報復をしてイランの暴走を招いて中東全体を紛争に巻き込まないようイスラエルと取引するレバレッジも無いとバイデン政権を批判している。


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