2025年2月15日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2024年12月5日

 女性の投票権を認めた憲法修正第19条が批准された100周年記念日である2020年8月18日、トランプは、女性参政権運動を進めたスーザン・B・アンソニーに恩赦を与えた。彼女は、1872年の大統領選挙で参政権のないまま投票して逮捕され、100ドルの罰金を科されていた。しかし、この恩赦は、当時アンソニーが「1ドルたりとて払わない」と述べて罰金を払うことを拒否することで否定していた当時の制度そのものを受け入れることになるため受け入れがたいという見方もあり意見が分かれた。

記憶に残る恩赦となってしまうのか

 米国の行く末に大きな影響を与えた恩赦と言えばジェラルド・フォードが、ニクソンに与えた恩赦であろう。民主党全国委員会本部盗聴未遂事件に端を発したウォーターゲート事件によって辞任に追い込まれたニクソン大統領は、そのままいけば弾劾され、訴追されるはずであった。それをニクソンの辞任によって副大統領から昇格したフォードが、就任からわずか1カ月後に恩赦を与えたのであった。

 これによって前代未聞の大統領主導による犯罪の全容が解明されることがなくなり、その罪を犯したニクソン自身が罰を受けることはなかった。フォードは、ニクソン自身が既に十分苦しみ、また、法廷闘争が行われることで国の威信に傷がつくと恩赦の理由を説明したが、国民はそのようには受け止めず、1976年の大統領選挙でフォードが敗れる大きな原因となった。

 バイデンは、ずるずると退任を先延ばしすることで、後継候補が予備選によって選ばれる過程を妨害し、2024年の民主党の敗北をもたらした原因となったと批判されているが、今回息子を恩赦したことによって、今後トランプが私的な利益のための恩赦を与えたときに民主党が批判しづらくなる原因を作った大統領として記憶されることになってしまうのだろうか。(文中敬称略)

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