2025年1月6日(月)

Wedge REPORT

2024年12月13日

 Tier1部隊を上回る武力を持つ敵に屈したのではなく、非武装の民間人である国会議員と政党・国会関係者の激しい抗議に屈した。議員らから戒厳解除後の責任追及を突きつけられ、右往左往する姿が全世界に流された。

 この背景には、特殊戦司令官による「絶対に兵士に実弾を持たせるな」「国民の安全が最優先で絶対に被害がおきないことを作戦の重点とする」との指示があったことが明かされた。つまり、司令官は最高刑が「死刑」の抗命罪となる危険を冒してまで、議員ら民間人との衝突を回避したのだ。

 筆者は朝日新聞のインタビューに対して、「韓国軍が権力者の軍隊から国民の軍隊に変わったことを印象付けた」と答えたが、上位下達で命令を完遂するという軍隊の本旨に立てば、極めて重大な問題を露呈させたと言わざるを得ない。

世論を恐れ萎縮する韓国軍

 国会に尹大統領の弾劾訴追案が提出され、それを支持する世論が高まると、氏名などが秘密指定されている第707特殊任務団団長のキム・ヒョンテ大佐がメディアの前に現れて、「部隊員は金龍顕前国防相に利用された被害者だ」「隊員に罪はない。あるなら、無能な指揮官の指示に従った罪だけだ。いかなる法的責任も私が負う」と涙を流して陳謝した。

 すると、多くのメディアはこの模様を好意的に取り上げた。上述の「権力者の軍隊から国民の軍隊に変わった」との視点に立てば、キム団長は良心に従った指揮官と見ることができる。

 また、キム団長は直属の上官である特殊戦司令官から何度も国会議員を排除しろとの電話がかかってきていたが、「(国会に)入ることもできない」「無理なやり方はできない」と答えて、積極的な行動をとらなかったと弁解した。

 このことを捉えて、韓国では「抗命権」の行使と好意的にとらえる論調が多い。

 しかし、軍人に適用される軍刑法、軍事裁判所法に抗命権の記載はなく、軍人の行動を規律する軍人の地位及び含むに関する基本法には、「軍人は、職務を遂行するとき、上官の職務上の命令に従わなければならない」と記されているだけだ。とは言うものの、抗命が認められる場合もある。だが、それは国際人道法で禁止された非戦闘員への攻撃や捕虜への虐待など非人道的行為に限られる。

 そして、このような法律上の規定を飛び越えて、韓国では「非常戒厳で出動しても抗命した者は無罪でよい」「抗命したとしても出動したのは事実だから後世のために厳しく処罰すべき」という意見が交差している。

 いま韓国軍は世論の動きを忖度して、萎縮している。9日付朝鮮日報が伝えたところでは、合同参謀本部は兵力移動により誤解が生じることをおそれて、部隊の移動を制限しており、大規模な訓練も行えない状況にあるという。


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