署名は無記名投票とは異なる。SNSで「いいね」を押すのとは、意味合いが異なる。
署名とは、氏名を明らかにしたうえで、自身の意見を公然と示し、その意見に対する責任を自ら引き受け、政策への影響を意図して、直接行動に出るものである。その後、個人情報が公にされ、発言の責任が問われることは、当然覚悟しなければならない。
しかし、オンライン署名については、人と人との対面での接触がないため、心理的ハードルが下がる。署名の誘いがSNSのシェア機能等で拡散されて流布するため、軽率に署名する人も出てきてしまう。
署名数がふえれば、集団心理の追い風を受けて、いっそうハードルが下がる。特に、署名の内容が人間の嫉妬心を刺激するようなものなら、冷静な判断力は奪われる。結果として、責任を自覚することなく、感情に流されて、署名してしまう。
それにしても、1万2000人の署名者のなかに、自らの氏名を明らかにしたうえで、なぜ、悠仁さま東大進学反対の署名をしたのかを説明できる人はいるのだろうか。悠仁さまが東大の学校推薦型選抜を利用するとの主張を、証拠をもって1億の国民に証明してみせる人はいるのだろうか。
自ら署名したのであろうから、それを説明する責任はある。しかし、その責任を自覚している人は少ないであろう。
サイバー空間のブーメラン反転
今後、風向きが変わって、今度は国民の圧倒的多数派が、無責任な署名をした1万2000人の一人ひとりの責任を問い始めるかもしれない。サイバー空間でブーメランが反転して、署名者の方に一斉に向かってくるかもしれない。
日本の人口は、オンライン署名した人の1万倍である。国民の1万分の1にすぎない署名者の個人情報は、どのようになるのだろうか。
Change.org上ではすでに署名した人の名は見られない。個人情報取扱事業者は、署名者の情報を目的外に使用したり、第三者に提供してはならないとされる。したがって、プラットフォームが、本人の同意なく氏名を公開したり、漏洩させたりすれば、プライバシー権侵害とされる可能性がある。ただし、紙ベースの署名簿と異なり、署名がデジタル情報なので、一瞬で拡散されるリスクはある。
そうなると、署名した人が後になって個人情報を削除しようにも、完全な収拾は困難になる。検索エンジンは、リベンジポルノや誹謗中傷に対して削除依頼を受け付けているが、それでも完全な削除は難しい。ここにいわゆるデジタル・タトゥー問題が発生する。
加えて、皇室については、いつの時代にも熱狂的な擁護者がいる。1961年(昭和36年)には天皇に対する不敬を理由にした殺人事件(嶋中事件)が起きている。今後、進学反対運動に署名した人が激しい敵意を向けられる可能性もある。WEB上で執拗なバッシングの標的になるかもしれない。