2025年12月5日(金)

災害大国を生きる

2025年1月24日

 作業中、すぐそばに建っていた家の外壁に、胸の高さほどにまで泥の跡が残っていることに気付いた。思わず見入っていると、地元の参加者が悲痛な思いを話してくれた。

 「私たちの避難所とされていたあの中学校が、水没したんだ。この辺り一帯が全部『川』になって、道路なんて見えなかった。こんなことになってしまったらもう、住めん……」

浸水したこの体育館を活動拠点として復旧させることが最初の活動だったという

 昼の休憩時、徒歩数分の場所にあった「スーパーもとや」で弁当を選んだ。いつもなら軽く平らげる量だが、全身からヘドロの臭いがすると、思うように箸が進まなかった。

一企業の「姿勢」が問われる
ボランティアを支える制度

 こうしたボランティア活動を、社会はいかに後押しできるだろうか。

 「『いざという時に人の役に立ちたい』。創業者から受け継いだ信念を、言葉だけにとどまらせず、社員たちに体現してもらいたいのです」

 こう話すのは、天気予報を提供するウェザーニューズ(千葉県千葉市)人事部長の花田孝之氏だ。

 同社は能登半島地震後の2月から有給の「ボランティア休暇」を創設し、社員の参加を後押しした。毎週4~5人の社員が能登に赴き、12月までの間に全社員1150人のうち115人が参加している。1年度内で5日間、同休暇を取得することができるという。

 「被災地を訪れてこそ、必要とされている情報は何か、被害を防ぐために何ができるかなど、現場目線で考えることができるはずです」(同)

 参加することで初めて災害を「自分事化」でき、それが実務への応用、社員個々の成長につながっていく。

 富士フイルムビジネスイノベーション(東京都港区)は1990年、日本で初めてボランティア休暇(ソーシャルサービス制度)を導入した。翌91年には会員制の「端数俱楽部」を創設。「企業市民として社会と共に歩み、複眼的に世の中を見てほしい」。創設の背景にあった社員に対する経営陣の思いを、端数倶楽部事務局の尾崎惠子氏が教えてくれた。

 端数倶楽部には約3000人(社員全体の約2割)の会員がおり、彼らの拠出金を基に寄付やボランティア活動を企画・運営している。個々が定めた1口あたり100円の拠出金と、100円未満の端数を毎月の給与から天引きする仕組みだ。

 同倶楽部の副代表幹事を務める森本健氏は「被災地には2012年から延べ40回、400人以上の会員が足を運んできた。解体前の家財運び出し、泥出しの肉体労働以外にも、泥にまみれた写真洗浄の手伝いをしたこともあります」と語る。

 また、富士フイルムホールディングスでは、能登半島地震後に、同社製のカメラや交換レンズなどを無償で修理する活動を実施した。その判断を1月4日の時点で迅速に下せたのも、富士フイルムグループとして、過去の経験があるからだった。

 東京大学名誉教授の佐藤博樹氏は言う。

 「特別休暇制度は企業の社会貢献をアピールするための〝道具〟ではなく、『自社の社員にどうあってほしいか』という経営側の思いを表すものであるべきです」

 ボランティアに参加したい人が休みやすい環境を整え、初心者の「最初の一歩」をサポートする。そうした企業文化が広がれば、ボランティアを担う母体として民間企業が位置付けられていくことにも期待できる。もちろん、ボランティアに参加しなくとも、企業活動を通じて被災地の復興に役立つことも立派な支援の一つである。ボランティア参加を強制したり、参加しない人を卑下するような社会にしてはならない。


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