世界の生産量の8割のシェアを握る中国製太陽光セル、モジュールへ米国は既に課税している。中国製が迂回輸出されている東南アジア産太陽光発電製品にも昨年補助金相殺関税などを課した。
課税を逃れるため、中国企業は米国で相次いで工場を建設している。建設を助けているのは、バイデン政権下で導入されたIRAの太陽光発電製品製造に関する補助制度だ。米国が税金で中国企業を支援しているのだ。
太陽光発電設備を導入する事業者への補助金は、共和党支持者が多い州の企業を助けるので容認するとしても、トランプは中国企業を税金で助けるのだろうか。
米国政府の中国製パネル輸入との闘い
2000年代前半には日本企業が世界のパネル生産シェアの5割を保有していたが、中国政府と地方政府の支援を受けた中国企業が2000年代後半急速に生産量を増やし、日本企業に代わり世界市場の5割を握った。
オバマ政権は、中国企業の安値攻勢を受けた米国パネル生産企業の訴えを受け12年に中国製太陽電池セルへのアンチダンピング関税と相殺関税の課税を開始した。その後、中国製モジュールも課税対象になった。
米国企業のパネル製造を助けるはずだったが、中国企業は、台湾、東南アジア諸国を迂回し輸出を始めた。さらなる対策が実行された。
18年に、トランプ大統領は中国製に限定せず世界の太陽光発電製品を対象に緊急輸入制限措置(セーフガード)に基づく関税を4年間課すことを決定した。米国での中国製パネルのシェアは1%以下まで落ち込み、ベトナム、タイなどからのシェアが増加した。
22年にバイデン大統領は、期限を迎えたセーフガードのさらなる4年間の延長を決定した。
23年8月に米国は一部中国企業による太陽光発電製品の迂回輸出を認定し、カンボジア、タイ、ベトナム、マレーシア製製品への相殺関税とアンチダンピング関税の課税が決定したが、米国内の供給確保のため課税の開始は24年になった。
24年10月に東南アジア4カ国の製品に対する相殺関税、12月にアンチダンピング関税率が仮決定した。
迂回輸出の道も失った中国企業は、米国での工場建設に乗り出した。
中国企業を助ける補助制度も維持するのか?
24年の世界の太陽光モジュール製造量の上位10社は全て中国企業だった。速報値では1位Jinko、2位Trina、3位JA Solarだが、上位3社を含め多くの中国企業が米国でのモジュール製造に乗り出している。
米エネルギー省のデーターを元に、中国の太陽光モジュール製造企業の進出状況を図-4に示したが、今年の米国の製造能力の約5割を占めそうだ。
オバマ以降の政権は、中国パネルを締め出すため課税し、国内製造を育てるためIRAで太陽光導入と製品製造に対する大きな補助制度を導入した。
たとえば、モジュール製造量に対し1ワット当たり7セントが29年まで補助される。その後30年5.3セント、31年3.5セント、32年1.8セントと減額される。
米エネルギー省はモジュールのアジアでの製造コストを1ワット当たり20セントとみているので、大きな補助額だ。
この制度により米国企業は太陽光発電製品の国内製造を開始したが、制度は関税により米国市場から締め出された中国企業の進出も助けることになった。
年産500万kWの製造能力を持つ企業が25年に製造を開始すれば、フル生産を前提に20億ドル(3100億円)を超える補助金を8年間で受け取れる。
トランプが中国企業も助ける制度を維持するのだろうか。トランプ登場のリスクを感じたのか、世界2位のTrinaは24年11月1日に操業を開始した年産500万トンのテキサス州のモジュール製造工場をノルウェーの電池企業Freyrに売却すると発表した。
さて、トランプは再エネ支援の制度をどうするのだろうか。図-4に示した中国企業が進出したのは全て共和党地盤の州なので、一段と悩ましいだろう。議会からは、全面的な補助制度廃止ではなく、中国企業を補助対象から外すべきとの声も聞こえている。ネバダ州民のみならず中国企業も注目しているだろう。

