他方、各派閥は、互いに争って膠着状態に陥るのではなく、ある面では互いに歩み寄り、またある面では互いを強化することで有益な結果をもたらす可能性がある。例えば、主流派とハイテク派は、保護主義や移民に関する行き過ぎを制限し得るし、一方、改革に関するハイテク派の賢明なアイデアは、政治的に機敏に実行され得る。規制緩和と技術革新の必要性については誰もが同意しているため、このプログラムに有益な勢いを与えることができるだろう。
トランプは株価に敏感であり、株式市場を通じてトランプノミクスへの投資家の評価をリアルタイムで知ることにより、その決断を左右する可能性がある。そうなれば、政権は成長を後押しする政策に舵を切るかもしれない。ハイテク集団のワシントン進出はハイリスクだが、ハイリターンとなる可能性もある。
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移民めぐるハイテク派とMAGA派の論争
この社説は、イーロン・マスクをはじめとするハイテク人脈のトランプ政権への登用により生じ得る問題点やその背景、リスクとメリット等につき指摘し分析するもので、トランプ政権の今後を占う上で参考となる点があろう。
ハイテク派が、イデオロギー的MAGA派と小さな政府を志向する伝統的な主流派と並んで政権を支える第3の派閥となることは、この社説の指摘の通り、各グループの間の価値観や政策の違いをむしろ際立たせ、トランプ支持勢力の分裂という傾向を強めるようにも思われる。記事中に引用のある高度な技術を持つ移民ビザをめぐるハイテク派とMAGA派の論争はその典型と言える。
高度な技術を持つ労働者や高度な学位を取得した学生を毎年数に限って移住者として受け入れるH-1Bと呼ばれるビザについて、MAGA強硬派は、これが米国人の職場を奪うものであるとしてその制限・廃止要求を再燃させた。それに対し、マスクやラマスワミらハイテク派は、この制度は米国の競争力を維持し、ビジネスを成長させ雇用を生み出していると強く反論し、相互間の人格攻撃的な応酬にも発展した。
ハイテク人材の登用はメリットだけではなく、ビザ問題で既に顕在化したように、今後もMAGA派とハイテク派の間で政策的にも対立する可能性が強く、また、ハイテク派に議会対策の経験のないことや利益相反的な問題で政権の足を引っ張る懸念があることも確かである。
ハイテク派とMAGA派の価値観の違いは、正に「アメリカ・ファースト」というスローガンに内在する矛盾を示している。米国政府が、長年に渡り産業政策的考慮を欠き、他方で、中国の台頭や北米自由貿易協定(NAFTA)の効果により製造業が衰退した事実は否定できず、対策としてMAGA派は理想とする白人中心の古き良きアメリカへの回帰を主張している。