2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月27日

 第三は、リーダー不在のアナキー(無秩序)である。トランプの「アメリカ第一」政策により、世界でリーダー不在の真空が出来る。貿易戦争で経済が停滞し、スーダンやミャンマー等で内戦が激化する。地域の大国が紛争を煽る。ハイチ等が無秩序に陥り、西側諸国への難民流入が増大しポピュリスト政党が伸長する。

 第四は、米国抜きのグローバリゼーションである。米国は関税で防壁を築き、世界貿易機関(WTO)を脱退する。米国内では物価が上昇し、商品の品質が低下する。

 他国は経済相互依存を加速し、EUは中南米との貿易協定を批准し、印中とも新協定を結ぶ。欧州は、中国製電気自動車(EV)や環境技術を受け入れ、中国がEUに工場を建設する。グローバルサウスは中国との経済統合を深め、ドルの地位は低下する。

 第五は、「米国第一主義」の成功である。投資が米国に集中し、米国は技術と金融の優位を拡大する。欧州や日本は、防衛費を大幅に増加し、それがロシアと中国の侵略を抑止する。

 米国の関税政策が中国の成長を抑制し、中国の体制が危機に陥る。これからの4年間は、これらのシナリオの融合あるいは予測不能な新たな展開を含むものとなろう。

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今の危機は4年の問題

 ラックマンによる刺激的な議論である。ラックマンは、①今や米中露三国が夫々世界秩序に変革を求める「修正主義国家」となった、②米国が本気であれば「世界は適応する他ない」、③トランプに最も脅威を感じている国は米国の伝統的同盟国である(英国、日本、カナダ、韓国、ドイツおよびEU)、④日本はトランプ関税の標的になる可能性が高いが対米報復の可能性は低い、安全保障が交渉の駒になるようなことは避けるだろう等と指摘する。その上で、五つのシナリオとして、①大国間の取引(勢力圏に合意)、②偶発戦争、③リーダー不在のアナキー、④米国抜きのグローバリゼーション、⑤米国第一主義の成功を挙げる。   

 ラックマンの5のシナリオのうち、①や②は悪いシナリオだが否定は出来ず、注意を要する。③や④は有り得る。④のシナリオでは、米国は本当に衰退国家になるだろう。

 ⑤の米国第一主義の成功は、可能性は低いのではないか。トランプの政策と手法が上手く行くようには思えない。

 米中露三国は何れも今や修正主義国になったとのラックマンの指摘は、言い得て妙だ。しかし、米国の修正主義には中露のような必然性はなく、その理由はトランプが大統領になったからということでしかない。


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