2025年5月21日(水)

韓国の「読み方」

2025年1月27日

「非常戒厳」で困った国はどこか?

 韓国国外に目を向けると、「非常戒厳」以来の韓国内の混乱によって最も困った外国の政治指導者は、ウクライナのゼレンスキー大統領かもしれない。なぜなら膠着するロシアとの戦闘を少しでも有利に、かつ失われた領土を取り戻すために外国からの軍事支援が喉から手が出るほど欲しいウクライナにとって、新規の武器供与国として韓国をターゲットに定めてきたからである。特に最近ウクライナ戦争の即時停戦を主張する米国のトランプ大統領がカムバックし、なおさら韓国の迅速な供給力に期待が高まることは当然であろう。

 これまでの韓国とウクライナとの間での具体的な動きとしては、ロシアがウクライナに侵攻して間もない2022年4月8日に、ウクライナと韓国の国防長官での電話会談で、ウクライナ側から韓国側に武器支援を要請したとされ、150から200品目と言われる軍需物資支援リストを示したとされる (パク・ソンジン「ウクライナが要請した軍用物資にロシア製の「T-80U戦車」も含む」『京郷新聞』2022年4月14日 )。また、同じ頃にウクライナの国防関係者が、韓国型ミサイル防衛(KAMD)を構成する防空ミサイル「天弓」の製造元であるLIGネクスワンへの訪問を企図していたと報じられた (ジョン・ビンナ「韓国武器を断られたウクライナ側、LIGネクスワンを直接訪問しようとしたが失敗」)。

 ただ、当時韓国側はウクライナ側の具体的な支援要求にロシアとの関係が完全に破綻することを懸念した。その結果、「紛争当事国に対して殺傷兵器を提供できない」とする従来からの立場を維持したのである。

 しかしながら、その韓国政府の立場を根本的に変えた契機になったのが、昨年6月19日に北朝鮮とロシアとの間で締結された「包括的戦略的パートナーシップ条約」と、約1万2000人とも言われる北朝鮮軍兵士が対ウクライナ戦争への派兵である。

 前者の場合、条約締結後、当時の国家安保室長(日本での国家安全保障局長に相当)は記者会見でロシアが北に先端技術を供与すれば、韓国がウクライナに武器支援を制限してきたラインはなくなるとの趣旨の発言をした。次に、北朝鮮による派兵が明らかになった昨年10月22日には、韓国大統領室は北朝鮮とロシアの軍事協力進展度合いによって段階的に対ウクライナ支援のレベルを上げることを検討すると発表した。「現時点で殺傷兵器をウクライナに支援することはない」と前置きをしつつも、将来的な支援の可能性があることを示唆したのである。

 ここで韓国が懸念していることは、北朝鮮軍がドローンなどを活用した現代戦の習得や、偵察衛星や原子力潜水艦などの関連技術といったロシアによる先端軍事科学技術の供与だけではなく、将来朝鮮半島で紛争が起きた際にロシアが実際に兵力を派遣する可能性が生まれたことである。こうした北とロシアの動きと前後して、ウクライナからの武器支援を要請する動きは活発化している模様だ。

 今回の非常戒厳が出されるちょうど1週間前の11月27日に、ウクライナの国防大臣をトップとする国防代表団がソウルを訪問して尹大統領らと会談した。両国からの公式発表に軍事支援に関する発表はなかったとはいえ、ウクライナから韓国への軍事支援リストが再び提示されたことは容易に想像可能である。


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