対欧州への装備品供給に影響が出るか
ウクライナと同様に今回の事態で困っている国は、ポーランドをはじめとするロシアに近接する欧州諸国であろう。ウクライナ戦争以後、ポーランドの爆買いに始まった韓国防衛産業の躍進は、昨年のルーマニアとの契約に続いて、リトアニア、ラトビア、チェコ、アルメニアなどで商談あるいは新たな国防協力を模索する動きが明らかになった。
防衛産業をめぐるセールスは、最終的に国と国との関係で双方の政治リーダーがその責任を担保する形で契約が結ばれる。韓国憲法裁判所による大統領弾劾の判断と、大統領弾劾決定後に実施される次期大統領選挙の結果が出て新大統領が職務を開始するまで、非常戒厳以前に契約まで至っていた案件は粛々と進められる一方で、セールス段階の相手国への新規案件提案や契約締結は難しくなるとの予測が有力だ。
韓国防衛産業は朴槿恵大統領弾劾(17年3月10日)の際にも、朴大統領のスキャンダルが噴出して国会での弾劾訴追案が可決した16年後半から、17年から18年にかけて文在寅政権が行った「積弊清算」による合計3年あまりに及ぶ装備品輸出の停滞期間を経験している。それでも今回は、政治のリーダーシップが回復するまで前回ほど時間を要しないものと予想される。
最近、駐韓ウクライナ大使が韓国メディアのインタビューに応じ、「韓国防衛産業はなくてはならないパートナーである」、「韓国の防衛産業にウクライナの国営および民間企業と協力することを提案」、「(これは)助けを求めるのではなく、収益性の高い協力を提案すること」と答えた (ムン・ジェヨン「ウクライナ大使「北朝鮮軍捕虜人道的に対処する…韓国防衛産業と協力したい」」『韓国日報』2025年1月13日 )。
現在行われている戦闘だけでなく、停戦後のウクライナの防衛能力再構築のために韓国の防衛産業の力は、ウクライナにとって不可欠であり、それは長期的な協力となるため韓国側に大きなメリットがあるという意味している。
これとは別にウクライナ戦争停戦後の国内復興に韓国がどう関わるかという動きも具体化し始めている。本年1月22日に韓国外交部は「ウクライナ再建支援関係機関協議会」を開催した。韓国企業がウクライナ再建事業に円滑に参入できるよう多角的な支援策を検討していくとされる (韓国外交部「ウクライナ再建支援関係機関協議会開催」2025年1月22日)。
今回の非常戒厳によって政治空白が生じている一方で、大統領代行のもとで日々の行政活動は遅滞なく継続している。そこには一度は非常戒厳直後に辞表を提出した閣僚らが、今回の事態による自国へのダメージを最小限にとどめ国益を守ろうとする信念が垣間見える。