地下とホームを20往復以上
緊張感の中での業務
地下とホーム上を1日に何往復するのか。駅物流東京営業所車販配送科科長の湊聖さん(49歳)によれば、「泊まり勤務の場合、10時から終電まで15~16往復、仮眠後に始発から翌朝10時まで6~7往復」だという。
列車への積み込み作業で最も気をつけなくてはいけないことは何か。湊さんは言う。
「ホームを間違えないことです」
通常は列車が入線する13分前に荷捌き場を出発して、5分前には商品積み込み用の扉がある11号車付近に到着し、列車の入線を待つ。東京駅には東海道新幹線のホームが3つあり、それぞれのホームに14・15、16・17、18・19という番線がある。ホームを間違えると再び地下に戻って正しいホームに向かわねばならず、列車に間に合わないという事態にもなりかねない。
だったら、早めに荷捌き場を出て余裕を持って着くようにすればいいと思ったが、「ホームに上がった後に、無線で新幹線の番線変更の知らせがくる可能性があります」。
予定の車両から別の車両に差し替えたとき、または天候不順によるダイヤ乱れ時などに、列車の番線が変更になることがある。たとえば14番線から18番線に変更になるとホームも変わってしまう。変更の知らせはいつ来るかわからない。そのため、ぎりぎりまで荷捌き場で待機している必要がある。それでも、ホームへ向かう途中に番線変更の連絡が来ることもある。
積み込み作業が綱渡りになることもある。同営業所副所長の相原宏生さん(56歳)がこんな経験を明かしてくれた。団体客向けの弁当を配送したときのこと。本来なら列車到着後、車内を清掃してから折り返すため、積み込みに時間の余裕があるはずだったが、天候不順で列車が遅延し、急遽、品川区にある大井車両基地から回送列車を出して対応することになった。清掃が不要なので東京駅に到着したらすぐに出発となるため弁当を積み込む時間が足りない。
「弁当をすべて積み込まないとお客様が困るし、列車の発車を遅らせるわけにはいかない。あのときはひやひやしましたね」
台車を押すのも簡単ではない。ワゴンによる車内販売を行っていたときと比べれば、積み込む商品の量は減り、台車を押すのは楽になった。それでも、「初心者には難しい」と湊さんは言う。ホームの床は線路に向かって微妙に傾斜している。雨が降った場合に水はけをよくするためだ。この傾斜が厄介で、台車をまっすぐ押すにはコツがいる。金曜日の夜や休日などホーム上が多くの人であふれているときに「台車が通ります」と言っても、周囲の喧騒にかき消され気づいてもらえないこともあるという。
台車を押していると、ホーム上で呼び止められることがある。「この列車は何番線に到着するのか」、「どの駅に停車するのか」。質問は様々だが、「答えられるものにはできる限り対応するようにしている」と相原さん。本来の仕事ではないのではないかと聞くと、「お客様への対応も含めて仕事です」。
最近は外国人客から尋ねられることも増えた。「言葉がわからないなりにこちらも一生懸命お答えすると『サンキュー』と言ってくれる。この仕事をやってうれしいと思える瞬間です」。