「マッハ便」開発の裏側
彼らはなぜ実現できたのか?
JRTLは「東海道マッハ便」という新たなサービスをスタートした。「こだま」の11号車にある業務用室を活用して荷物を運ぶサービスだ。東京─新大阪間を結ぶ「こだま」はおよそ1時間に1本あり、所要時間は4時間程度。トラック輸送と比べれば格段に早い。
マッハ便を使ってJR東海のグループ会社が製造する名古屋の名物スイーツ「ぴよりん」を東京駅まで運ぶことになった。とろけるような食感のぴよりんは衝撃に弱く、輸送時に型くずれしやすい。このため名古屋以外で売られることはめったにない。荷物をいかに安定した状態で運ぶか。相原さんたちスタッフは、台車にクッションを敷いたり、ホームの黄色い点状ブロックを通過するときには段ボールをクッション代わりに敷いたりして衝撃を緩和し、無事納品することができた。「マニュアルにないことは、現場でやれることを考えた」と相原さん。
「お客様の要求に応えて商品を安定して運ぶ。時刻通り列車に商品を積み込む。こうした基礎となる力が現場にあるからこそ、マッハ便のような新しい仕事を生むことができたのです」
地上と地下を1日に何度も台車を押して往復する毎日にも、創意工夫があり、人とのコミュニケーションが日々の仕事の活力となる。
ある日、湊さんは作業中に、2人の男女が新幹線の窓越しにお互いの顔を見ながらスマホに文字を打ち込んでいる光景に出くわした。声を出す代わりにSNSで会話をしているのだ。「何を話しているのかな」、そんな疑問も頭をよぎったが、湊さんは再び台車を押した。台車に載せられた商品を乗客が待っているからだ。新幹線は荷物も、人の想いも運んでいる。