2025年4月23日(水)

教養としての中東情勢

2025年2月7日

義理の息子クシュナー氏の影

 大統領の発想はどこからもたらされたのか。戦争で荒廃した地をリゾート地に変貌させるというアイデアはいかにも本業の不動産屋らしい着想だが、米メディアによると、娘イバンカ氏の夫ジャレッド・クシュナー氏から感化されたとの情報がある。不動産事業を営むクシュナー氏は昨年、「ガザのウオーターフロントは極めて価値がある」などと発言していた。これに触発された可能性があるとの見方だ。

 ワシントン・ポスト紙は大統領の驚がく的な提案に対する説明として、4つの理由を挙げている。1つは「目くらまし」作戦だ。大統領や政府効率化省を率いるイーロン・マスク氏による政府組織の閉鎖などに対しては、「憲法違反」などとの反発が強まっているが、「ガザの所有」という型破りな提案を公表することで、そうした批判を逸らそうとしているのではないか、というものだ。

 2つ目は高関税をかけると脅したことで、カナダやメキシコから譲歩を引き出すことに成功し、中東でも同じことを仕掛けているという説だ。イスラム組織ハマスを譲歩させ、サウジアラビアにイスラエルとの国交樹立で妥協させることを目論んでいるというのだ。

 3つ目は大統領が「何をやるか分からない人物」であることを印象付け、中国などとの交渉を有利に運ぼうとしているとの見方だ。「予見不能性」を大きな武器にするというわけだ。

 4つ目はグリーンランドの所有やパナマの返還、カナダの併合という主張と同じように、帝国主義的な傾向をガザでも示したというもの。「皇帝トランプ」の本性があからさまになってきたということだろう。

 アナリストの1人は「提案は1つの動機からではなく、さまざまな要因が積み重なって出てきたものだろう。恐いのは大統領の胸の内を側近すら知らなかった懸念が強いことだ。大統領の言動を誰も止められない危険な領域に入ったということではないか」と指摘している。

飛び交う批判と火消し

 中東各国や国際社会は猛反発している。パレスチナ自治政府は提案を非難し、住民の強制移住を打診されたヨルダンやエジプトなどアラブ5カ国外相は米国のルビオ国務長官に反対の書簡を送り、米国がイスラエルとパレスチナによる「2国家共存」を尊重するよう要求した。

 国連のグテーレス事務総長は「強制移住がパレスチナ民族の浄化に相当する」と批判、ドイツやフランスも「国際法違反」などと非難した。トランプ氏やイスラエルが最も気にかけているサウジアラビアは外務省声明で、パレスチナ国家創設への道筋が示されない限り、イスラエルと国交を樹立しない方針に変わりのないことを強調した。


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