アブラハム合意は、パレスチナ人がイスラエルに対して持っている数少ない武器の一つであるアラブ諸国の圧力を奪うものだ。そのことは同時にイスラエル側にパレスチナ問題解決への最後のインセンティブも失わせる。
今回のガザの停戦により、サウジアラビアをアブラハム合意に参加させるというわずかな可能性が生じたが、トランプ政権にとり至難の業であろう。ガザで起きた殺害、破壊、飢餓は、アラブ世界とイスラム世界の世論に火を付け、グローバル・サウスの中でのイスラエルと米国に対する信頼を粉々にした。そして、ガザの衝突はアブラハム合意を破壊しなかったが凍結に追いやっている。
そして、イスラエルを中東地域の普通の国として受け入れることのコストがますます増える一方でそのメリットは大きく減った。つまり、サウジアラビアをはじめとする湾岸産油国の支配者達が望む唯一の事は安定だが、イスラエルのガザでの蛮行、レバノン侵攻、イランに対する報復攻撃、アサド政権の崩壊後にシリア領内を占領したことは、安定とはほど遠い。
アブラハム合意は平和と安定を約束したが、ネタニヤフ首相が主張する新しい中東の現実は、永遠に続く流血と不安定さであり、イスラエルの力ずくでの中東支配に他ならない。そして、パレスチナ人の犠牲によりアラブ諸国とイスラエルの関係正常化をすることは、誤っており、最も危険なことだ。
バイデン政権がこれを学ぶのに3年かかったが、トランプ政権は、もっとましに学べるのだろうか。
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「永遠の同盟も永遠の敵もいない」
まず、この論説の主張していることは、いささか感情的だが正論だと思われる。名前から想像するに筆者はパレスチナ系だと思われるので、感情的になるのも仕方ないであろう。
バイデン前大統領は、大統領再選のためにユダヤ系の支持を狙って2023年夏以降、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に躍起になった。しかし、サウジアラビアがイスラエルと関係正常化すれば、他のアラブ諸国も雪崩を打って後に続くのは目に見えており、パレスチナ問題が終わった問題となってしまうことを恐れたハマスのイスラエル攻撃を招き、今も続いている中東の紛争の拡大を招いている。
サウジアラビアを初めとするペルシャ湾岸のアラブ産油国は、原油・ガスで豊かさを享受しつつ、安全保障的には極めて脆弱な国々なので何よりも「安定」を望んでいるという上記論説の指摘は正しく、ガザ、レバノン、イラン、そしてシリア(アサド政権崩壊直後にイスラエルはシリア領内を一部占領した)に対するイスラエルの恐ろしく攻撃な姿勢に驚懼しているのは間違いない。
