「改めて旧採点ルールの中のショートプログラムで、後半に2回ジャンプを跳び、それがトリプルアクセルと4回転―3回転(トーループ)というジャンプというものの難しさを改めて感じました」
30分の休憩を挟んだ後半は、「アクアの旅路」から演じ、祈りを込めた「Danny Boy」は純白の衣装でしっとりと舞った。
一人で襷をつないでいく
第3弾となった今回の「ICE STORY」は自らストーリーをしたためた。
「僕はスケートで表現する方が得意なので、日本語で表現することが、とても難しいなと思うのですが、皆さんが思っているよりも、皆さんは『強いんだよ』って、『強く生きているんだよ』っていうことを、祈りと共に言葉とスケートでしたためたストーリーです。
みんなが生きていることは、とても自然で、とっても奇跡的なことだと思います。運命に翻弄(ほんろう)される人も、運命を信じ続ける人も、未来を望み続ける人も、たくさんの方がいる世の中で、どうか、どうか、ちょっとでも、この『今』という瞬間を生きているんだっていうことを、ちょっとでも感じてほしいと思います」
羽生さんはスケートで表現する方が得意だと話すが、ワンマンショーで滑る肉体的、精神的な負担は想像を絶するはずだ。羽生さんは以前のインタビューで、一つずつのプログラムを駅伝の「区間」に例えて、一人で襷をつないでマラソンのゴールを目指す意識で単独公演に挑んでいるということを語ってくれていた。
長時間の演目に耐えるスタミナと、けがをしないフィジカルも重要だが、わずかなインターバルを挟んで再び全力で次のプログラムへ挑む切り替えや、多彩な演目を舞う上で欠かせない肉体のしなやかさなど、求められるものは多岐にわたる。競技者時代の“貯金”ではとても足りず、プロになってからもタフなトレーニングを積み重ねてきた。
その肉体美はすさまじく、この日の最後に舞った「SEIMEI」では、めくれ上がったTシャツからのぞいた腹筋は見事なまでに鍛え抜かれていた。もちろん、フィギュアスケートはただ筋力量を増やせばいいわけではない。強靱さとしなやかさ、瞬発性なども兼ね備え、そのベースの上にスケーティングやジャンプの精度を高めるための技術を積み上げていく。現在のような単独公演でツアーを組む存在は唯一無二で、それゆえに道標も存在していない。
