官僚機構への不信と自国ファースト
トランプ大統領は2月3日にホワイトハウスで記者団に対し、「急進的な左翼の狂人たち」が運営するUSAIDが「とてつもない詐欺」を横行させていると発言した。また、2月6日には自らが立ち上げたソーシャル・メディアのトゥルース・ソーシャルに、民主党に有利な話を報じるためにUSAIDなどから数十億ドルがPoliticoやニューヨークタイムズなどのメディアに流されているとの書き込みを行った。
名指しされたメディアはその情報を全面的に否定しているが、その後、マスクが所有するX(旧Twitter)等では、Politicoやニューヨークタイムズに加えて、英国のBBCや日本のNHK、朝日新聞などもUSAIDから資金を得て言論弾圧を進めているなどの情報が拡散されている(いずれの報道機関もその情報を否定している)。
トランプに代表されるようなポピュリストは、エリートと、エリートが多く存在する官僚機構や国際機関に対する不信を持つとされる。共和党は伝統的に小さな政府という原則を掲げる勢力が強く、官僚機構に対する不信も強い。国際開発は左派が積極的な分野であることもあり、USAIDはトランプ的なポピュリストにとっては格好の標的となるだろう。
トランプの意向を受けて国務長官のマルコ・ルビオは自らがUSAIDの暫定責任者だと称しているが、USAIDによって使われる「1ドル1ドル」が米国をより安全で強く繁栄させることを、証拠に基づいて正当化する必要があると発言している。この発言は、近年の米国政治が内向きの傾向を強めていて、トランプ政権がアメリカ・ファーストの立場を示していることにも対応しているといえるだろう。
世論は国際援助に批判的
このように書くと、USAIDに対するトランプ政権の対応は、トランプや共和党の意向にのみ基づいているかのような印象を受けるかもしれない。だが、実は、米国内に対外援助に対して批判的な認識が強く存在していることにも注意する必要がある。
2023年3月にAP通信とシカゴ大学の研究所が行った世論調査(AP-NORC)によると、回答者の約6割が、政府は過大な支出をしていると回答している。民主党支持者の場合は34%だが、共和党支持者の場合は88%に及ぶ。そして、対外援助については、過大な支出をしているとする人が69%に及んでいて、共和党支持者のうち約9割が、民主党支持者の55%が対外援助の削減を支持している。
ただし、これは米国民の認識が実態とかけ離れていることにも起因しているかもしれない。やや古いデータではあるが、15年にカイザー・ファミリー財団が行った調査によると、平均的な米国民は連邦予算の31%が対外援助に用いられていると認識しているとのことである。だが実際には、23年のデータでは対外援助は政府支出の約1%を占めているに過ぎない。