米国のソフトパワーを、トランプは気まぐれな関税や対外援助の打ち切り等によってわずか数週間で崩壊させようとしている。それは世界における米国の立場を弱くしようと、2025年2月3日付のワシントン・ポスト紙でマックス・ブートが慨嘆している。

米国のソフトパワーは長年の蓄積の産物だが、トランプ大統領はそれを数週間で壊そうとしている。カナダやメキシコとの貿易戦、対外援助の凍結、そしてベネズエラ難民の強制帰国の決定を見るとよい。それらは米国のソフトパワーにとどめを刺すものだ。
保守的なウォールストリート・ジャーナル紙が「史上最も愚かしい貿易戦争」と呼んだものから見てみよう。トランプは中国に10%、メキシコとカナダに25%の関税を課すと発表したが、理由が馬鹿げている。
彼は、メキシコやカナダとの貿易赤字に不満を述べるとともに、両国はフェンタニルと不法移民の流入阻止に十分努力していないと言う。しかし、米国とメキシコ、カナダとの貿易は相互に利益をもたらすものだ。自動車産業は3国間で密接に統合されているため、トランプ関税が実施されれば、米自動車メーカーは大混乱をきたすだろう。
とりわけカナダは非難されるいわれはない。2024会計年度に米=カナダ国境でのフェンタニルの摘発量は全体の1%以下、捕まった不法移民の数も全体の1.5%でしかなかった。
トランプは、関税の実施を1ヵ月遅らせ、カナダとメキシコには国境警備を強化してもらうと述べたが、カナダの場合、そもそも国境警備に問題はない。ましてカナダは、第二次世界大戦からアフガニスタンでの紛争に至るまで米兵と共に戦うために兵士を送った国だ。
また、米国のほとんどの対外援助を90日間凍結し、米国際開発局(USAID)の閉鎖に着手したことで、トランプは、世界中でエイズやマラリア等の病気の治療、きれいな水の入手、栄養不良の予防等で米国を頼りにしてきた多くの人々を疎外しつつある。USAIDは「邪悪」で「犯罪的な組織」(とイーロン・マスクはレッテルを貼った)どころか、米国のソフトパワーの重要な担い手であった。