2025年4月26日(土)

キーワードから学ぶアメリカ

2025年2月25日

USAID役割低下による影響は?

 トランプが大統領令でUSAIDを閉鎖することは、おそらく不可能だ。USAIDは連邦議会が61年に可決した外国援助法が政府の海外支出を管理するための政府機関の設立を義務付けたのを受けて、ジョン・F・ケネディ大統領が大統領令で設立したものである。そして、98年には連邦議会が独立行政機関としてのUSAIDの地位を確認する法律を可決している。

 米国の大統領令は、あくまでも行政部門を律するためのものであり、連邦議会が行った法律を乗り越えることはできないため、大統領令だけでUSAIDを廃止することは不可能である。現在の米国では大統領職のみならず、連邦議会上下両院の多数を共和党が握っているため、共和党が団結すればUSAIDの廃止や、国務省の一部門としての再編は可能かもしれない。実は、英国では2020年に当時のボリス・ジョンソン首相が国際開発省を外務省と統合させたことがあるため、同様の事例がないわけではないが、その決定が英国の国際的地位と影響力を向上させたという評価は一般的ではなさそうだ。

 いずれにせよ、仮にUSAIDの予算が数十億ドル規模で削減されることになれば、世界の多くの地域で影響が生じることになるだろう。とりわけ巨額の支援を受けているサハラ以南のアフリカで深刻な影響が生じると考えられており、ポリオやHIVなど様々な感染症の治療や予防が行われなくなる可能性がある。

 これは場合によると世界的な公衆衛生の危機と新たなパンデミックにつながる危険性も伴っている。また、USAIDはジョージアやアルメニアなどロシアの影響が及ぶ国々でガバナンスやメディアを支援するプロジェクトを展開しているが、それらも削減される可能性が高い。

 既述の通り、USAIDは単独で行動しているというよりも国際機関や他国、NGOなどと協力して活動しているが、このような多国間機関が機能しない状態となると、世界で困難に直面している国々がとることのできる選択肢が減少する。その結果として、米国に代わって支援を行う動きを示す国家や団体の主張に賛同する国や人が増える可能性が出てくるだろう。

 例えば、中国が一帯一路政策の一環として戦略的に支援を行う可能性もある。また、各種テロ組織が賛同者の拡大を目指しつつ、貧困者支援を行う可能性もあるだろう。それらの結果として、米国を中心とする自由主義陣営の存在感と影響力が世界的に低下する可能性も考えられるだろう。

 トランプ政権がもくろんでいるUSAIDの規模縮小は、一般に考えられているよりも根が深い、米国内の事情や国際政治の構造変動に起因している。そして、それが及ぼす影響も、実は甚大なのである。

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