2025年4月28日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月3日

 軍事専門家は、ロシアは保有する人員と武器で少なくともあと1年から18カ月は戦い続けることができるとしている。ロシアは、領土の交換を含むゼレンスキー大統領からの和平提案を却下し、ウクライナの非軍事化、西側の軍事援助の削減、ロシアに関するより友好的な位置づけをウクライナ憲法に明示することをかわりに求めた。

 プーチンは、トランプ政権第一期の経験から、この不動産王のやり方をよく心得ている。プーチンの最終目標は、ウクライナにおけるロシアの利益を確保して停戦協定後の敵対行為の再開を防ぐことだけでなく、将来ロシアに軍事的に対抗するような能力をウクライナに持たせないようにし、さらに「安全の保証を西側に提供させることを阻止」して、「ウクライナの緩やかな崩壊につなげること」だと専門家は指摘している。

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 本件記事は2月13日付であるが、2月14日~16日にはミュンヘン安全保障会議が開かれ、各国首脳、外相等が集まった。2月18日には、トランプ・プーチン間で合意された米露首脳会談のための高官会議がサウジアラビアで開催され、同会議に招待されなかったゼレンスキーは、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、トルコへの訪問を開始した。

 このような中、トランプはウクライナ問題のみならず、米欧間の安全保障のあり方にも今までとは全く異なるやり方で対処しようとしていることが明確になり、ウクライナも欧州NATO諸国も危機感を募らせている。

 検討すべき課題は多いが、以下では主に、①ウクライナ戦争の行方、②欧州の安全保障における米国の役割、③大国による世界秩序形成の問題を取り上げたい。

懸念されるトランプの「侵略」への認識

 第一に、ウクライナ戦争の行方について、最も深刻な問題は、トランプがこの戦争の本質についてこれまでと異なる理解をしていると思われることである。ロシア軍によるウクライナへの全面侵攻から1週間も経たない22年3月2日、国連総会は142カ国の圧倒的支持を得てロシアの侵略を非難する決議を採択した。その表題は「ウクライナへの侵略」である。この戦争は、ロシアが一方的に仕掛けてきた侵略であって、それが国際社会に共通の認識となっている。

 問題はトランプがこの共通の認識に立っていないとみられることだ。トランプは「ゼレンスキーはこの戦争を起こすべきではなかった」と、あたかもゼレンスキーがこの戦争に対する責任を負っているかの発言をした。

 この戦争の本質がロシアによる侵略行為であるとの認識は、ロシアに対する制裁、対ウクライナ支援、また今後あり得るべき停戦・終戦交渉のあり方等の全てに関わる最も基本的な前提であり、絶対に譲れない一線としなければならない。


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