バンガロールの観光名所の土産物屋街はゲイ・ボーイの溜り場?
12月20日。近代都市バンガロールのシティ・マーケット付近は、下町の風情が色濃く残っている。そのあたりにバンガロールの藩王時代に築かれた要塞があり、観光名所になっている。要塞の脇の狭い通りに土産物屋が連なり内外の観光客がぞろぞろ歩いている。
この150メートル足らずの狭い通りでわずか十数分の間に9人もの女装したゲイ・ボーイにすれ違った。いずれも2人か3人のグループで歩いていた。狭い通りなのですれ違う時に否応でもゲイ・ボーイと肩がぶつかりそうになる。
12月26日。ムンバイ・セントラル駅から約20分のサンタ・クルスまで近郊列車に乗った。途中の駅で一人の女装したゲイ・ボーイが乗って来た。
彼は前方の座席から順番に乗客に軽く会釈しながら、次々と小銭を受け取っていた。そしてしばしば乗客の額や肩にそっと触れて、なにやらつぶやいていた。なにかしら教会で神父が参集した信者に祝福を与えているような感じの仕草だった。なんと驚いたことに半分くらいの乗客が小銭を渡していた。
伝統的カースト制度におけるゲイ・ボーイの身分と職業
12月27日。ムンバイ近郊のビーチ近くのホステルのアラフォーの女性マネージャーと歓談。前日チェックインした時に気が利いて教養のある女性という印象を受けた。
マイソールで見た映画の悲劇の王子のストーリー、マイソールやバンガロール市内や移動中のバスや列車がみかけたゲイ・ボーイの話をして現在のインドでのゲイ・ボーイの現状について聞いてみた。
女性マネージャーによると、ゲイ・ボーイは伝統的なカースト制度上では最下層身分に分類され職業に就くことができない。それゆえ物乞いをするか売春(男色の相手)しか生きるすべがなかったという。
他方でヒンズー教ではゲイ・ボーイを男性でも女性でもなく両性具現した稀有な存在《ヒジュラ》として“祝い事やヒンズー教の祭礼で歌や踊りを披露させて人々がお布施を与える”風習もあったという。彼女の話し方から伺えたのは、《ヒジュラ》はゲイ・ボーイの中でもあくまでヒンズー教の聖職者などの高位指導層に認められ選ばれたごく一部であるようだった。いずれにせよ現代でも一般のゲイ・ボーイの人生は厳しいらしい。
最近まで同性愛は違法な犯罪行為だったインド
女性マネージャーがどうしてインドのLGBTQ問題に詳しいのか不思議に思い尋ねると、彼女の親友がLGBTQの人々を支援するNGOのリーダーであるとのこと。スマホで親友の女性がLBGTQ支援集会で演説する映像をみせてくれた。
2014年に最高裁はLGBTQの人々が自分の性を自分で選択できる権利を認めた。2018年に法律が改正される以前は同性愛、同性の性交渉は犯罪であったとのこと。さらに同性カップルの結婚を合法化するよう裁判所に提訴されたことを受けて、現在最高裁で法整備について検討しているという。
現代のマハラジャの王子はゲイであることをカミング・アウト
女性マネージャーによると、2006年に当時40代のマハラジャの王子がゲイ・ボーイであることをカミング・アウトしたことで、インド社会に大きな影響をもたらしたという。ネットで調べるとマンベンドゥラ・シン・ゴーヒル王子は親族一同から性同一障害を治療するというConversion Therapy(転向療法)を強要されたが王子は断固として拒否。逆に王子は宮殿の一部を開放して社会的に疎外されているLGBTQの人々の支援センターを開設して彼らのシェルターを提供した。
マネージャー女性によると現在では王子の活動に共鳴してこうした支援活動が広がりつつあり、ムンバイの近郊都市プネにも最近LGBTQのシェルターが開設されたという。
19世紀のゲイ・ボーイのマハラジャの王子の映画のストーリーと現在の実在のマハラジャの王子の活動が時空を超えて一つの壮大な物語となったように思えた。
以上 次回に続く
