肥料の3大要素である窒素、リン酸、カリ─。

それぞれ植物の葉の成長、開花・結実、根の発育を促す働きがある。今でこそ、化学肥料として当たり前のように使用することができるが、ここにいたるまでには「肥料革命」とも呼ばれる長い歴史がある。
窒素に関しては「空気からパンをつくる」と評された「ハーバー・ボッシュ法」が20世紀初頭に発明され、空気中の窒素をアンモニア合成することで肥料として使えるようになった。しかし、ここに名を残すドイツ人化学者のフリッツ・ハーバーは、14年に第一次世界大戦が勃発すると、毒ガスを開発することになる。戦後の18年、批判もあったが「ハーバー・ボッシュ法」の功績が認められてノーベル化学賞を受賞した。
リンを求める人間の欲望の深さにも驚かされる。『肥料争奪戦の時代 希少資源リンの枯渇に脅える世界』(ダン・イーガン著、原書房)に詳しい。一部を紹介すると、5万人の死傷者を出したと言われ、ナポレオンが敗れたワーテルローの戦い(1815年)。勝者の英国は、この地に埋まった遺骨(骨にはリンが含まれる)を掘り起こして持ち帰り、肥料にしたという。さらには、エジプトのミイラも肥料にされたそうだ。
ペルー沖の島などに堆積した海鳥のフン(グアノ)も利用されるようになり、その後、リン鉱床の採掘も始まった。南太平洋にあるバナバ島(オーシャン島)でもリン鉱床が発見され、英国企業によって運営された。太平洋戦争が始まると、このバナバ島を日本軍が占領し、島民を虐殺したという不幸な歴史もあるという。
そして現在。リン鉱床のある西サハラ地域では、世界の過半のリン鉱石の埋蔵量を持つモロッコと、同地域にいるサハラウィ人との間で紛争が続いている。
化学肥料は「緑の革命(農業の技術革新)」を支え、増加する世界人口を養うことができた。一方で、資源が偏在していることのリスクや、化学肥料が流出することで水質環境を悪化させるといった問題が顕在化するようになった。
日本では、尿素(窒素)以外は、全量を輸入に頼っている。しかも、りん安(リン)の過半は中国からの輸入に頼っている。供給先の多様化を図ろうにも、そもそも供給先が限られている。そのため、2010年に起こった中国による「レアアースの禁輸ショック」のような事態にもなりかねない。
※こちらの記事の全文は「食料危機の正体 日本の農業はもっと強くできる」で見ることができます。