「多様性重視のトランプ」と「多様性排除のトランプ」
2024年米大統領選挙では、トランプは従来の白人の労働者、主として白人の退役軍人、キリスト教右派、白人至上主義者から構成される白人中心の支持基盤に、黒人、ヒスパニック系(中南米系)およびアラブ系の有権者を新たに加え、民主党が得意とする「異文化連合軍」を組み、多様性を重視した。
筆者が今回、現地ヒアリング調査を実施して分かったのは、DEI(多様性、公平性、包括性)に関する認識と、DEIを実現するためのワークショップやトレーニングに対する補助金について、MAGAたちが否定的な意見を持っていることである。彼らは、DEIを「敵視」さえしていた。
トランプは1月20日の大統領就任式に、連邦政府、民間企業および軍において、民主党が重視するシンボル的な政策であるDEIを禁止する大統領令に署名した。余談だが、筆者がワシントンでヒアリングをした日系企業の幹部は、その企業内でDEIに関する研修実施の継続について検討していると明かした。
さらに、トランプは政府効率化省(DOGE)のトップに超富裕層の実業家イーロン・マスク氏を任命した。マスクは、連邦政府の“浪費を削減し、腐敗をなくす”ために、これまでに大量の連邦政府の職員を解雇した。その中には、世界における人道支援を行っている米国際開発庁(USAID)の閉鎖と同庁の職員解雇も含まれている。
USAIDは1961年、ジョン・F・ケネディ元大統領によって設立され、世界の人道支援に関して多大な貢献をしてきており、民主党のレガシー的な存在となっていた。その廃止は、民主党の影響力を低下するだけでなく、世界における米国のリーダーシップを失うことに直結する。
確かに、世界のリーダーとして米国優位を保つために、有効な手法であったが、人道支援には多額の資金をつぎ込まなければならなかった。資金ばかりではない。実に多くの人々が人道支援に関わってきた。
それは、米国の度量の大きさを示していた。その度量に引かれて、米国のリーダーシップに従ってきた国も少なくないはずだ。
今回のCPACの年次大会で舞台に上がったマスクは、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領からチェーンソーを贈られると、「官僚主義を削る」とMAGAに訴え、官僚主義と浪費を重ね合わせて、チェーンソーを掲げて見せた。
CPACの展示場では、トランプグッズなどが販売されたていた。そこで、ベンチに腰かけていた白人女性を見つけた。南部テキサス州から参加した60 代のマリアン・スミス(仮名)に、DEIに関して意見を求めると、彼女は次のように語った。
「DEIではなく、スキルや能力で採用されるべきです。私は、自分が白人女性だから採用されるのではなく、スキルや能力で採用されたいです」
前で紹介したファイファーも、反DEIの立場をとっていた。
「トランスジェンダーを特別扱いにするのは、公平性(E)に反します」
トランプは演説の中で、パリオリンピックでトランスジェンダーのボクサーが女性にパンチを浴びせた試合や、ウエイトリフティングやバレーボールの女性競技におけるトランスジェンダーの活躍を非難し、公平性に欠けると訴える。トランスジェンダーと連邦政府の税金の浪費の問題については、党派を超えて賛成する者がいる。
大会の初日と2日目に筆者の前に座っていた海軍のトランプ支持者の男性は、演説者の1人が米軍とDEIを絡めて「トランスジェンダーが米軍をかなり崩壊させている」と誇張して言うと、「そうだ。その通りだ」と叫んだ。会場のあちらこちらでからも「イエス」という声が聞こえた。トランプ支持者の間では、DEIとトランスジェンダーは不評なのだ。