どういうことか。米政府の予算は昨年3月1日から一律10%の強制削減が発動され、国防予算もその対象になっていたのだが、2013年12月に民主、共和両党間で、2014年度、2015年度それぞれの連邦予算総額を巡る合意が成立、「超党派予算法(Bipartisan Budget Act)」という法律が成立した結果、この2年間については米政府予算全体に対する予算10%一律カット措置の影響がかなり緩和された。しかし、2015年度予算案の中で、大統領が提出した国防予算案総額は、この超党派予算法で定められた上限額をすでに上回ってしまっているのだ。
このことが「国防省はまだ、アメリカという国が軍備の縮小(defense builddown)の段階に入ったことを理解していない(元行政予算管理庁(OMB)関係者)」という批判や、「昨年12月に合意したばかりの法律を破るような予算案を僅か8週間後に出してくるなんて信じられない」(議会関係者)といった批判を呼んでいる。このような来年度の国防予算に対する批判の流れの中で、今回のQDRに対しても「なんでもやろうとしていて、優先順位を付けるという意思が感じられない」(元空軍関係者)という批判が出ているのだ。
迷走する国防戦略、日本にとってはチャンス
ここまで紹介してきたような、今回のQDRを取り巻く状況から見えてくるのは、米国防政策の手詰まり感である。まず、人材一つとってみても、2010年のQDRをゲーツ前国防長官の圧倒的信頼を受けて主導したフロノイ政策担当国防次官や、2012年国防戦略指針策定を主導したヒックス戦略・計画・兵力担当国防副次官を始め、第1期オバマ政権が「アジア回帰」を打ち出した頃に、国防戦略を策定する中心的役割を果たしていた幹部の大部分が国防省を去ってしまっている。
また、アフガニスタンにおける2014年以降の米軍駐留を巡る協定がなかなか合意に至らず、シリア情勢も緊迫が続き、イラン情勢も予断を許さない、という状況の中、中東が持つ安全保障上のリスクは引き続き高いものであることは認めざるを得ない。さらに、米軍のプレゼンスを削減する方向で動いていた欧州で、ウクライナ情勢をめぐるロシアの最近の動きのような事態が起きてしまったことで、「アジアと中東」の二つの地域に特に重点を置く、というこれまでの国防戦略の前提が覆ってしまっている。しかし、「やはり欧州にも米軍のプレゼンスを残す必要がある」と誰かが言いだしたとしても、すでに国防省は、陸軍を第二次世界大戦開戦前の規模まで縮小するという方針を打ち出してしまっており、この決定を覆せるだけの国防予算の増額は望むべくもない。
要は、あらゆる方面で手詰まり感がある中で国防省が出してきたのが今回のQDRということだ。
ただ、今回のQDRは、サイバーセキュリティ、宇宙、弾道ミサイル防衛、情報収集監視(ISR)など、昨年10月の2プラス2で日米が協力を強化することで合意した分野のほとんどが、QDRで将来への投資として優先的に扱われており、またアジア太平洋重視路線を継続する中で、在日海軍の重要性が一層高まることが明記されるなど、今後の日米間の協議の進み方次第では、日米の防衛協力が飛躍的に深化する可能性を感じさせるものでもある。しかし、このチャンスを生かせるかどうかは、今後日本が、自国の安全保障政策が抱える課題にどのくらい着実に解決することができるかにかかってくるであろう。
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