高校無償化の目的と実際
高校無償化の目的は何か。よく言われるのは家庭の経済状況による教育格差を是正し、将来的な社会の公平性を高めることである。
また、少子化が進む中で子育て世代の経済的負担を軽減し、子どもを持つことへの不安を減らすことも重要な目的と言われる。このような目的自体に大きな異論はあるまい。
しかし、現実に起こっていることはちょっと違うようだ。例えば、10年の民主党政権時代に始まった公立高校の無償化では、子ども一人にかかる学習費の総額は、無償化直後は減ったものの、23年度には無償化前より高くなっているという。(前出記事)
なぜ、このようなことになるのだろうか。その理由として、高校で授業料がかからないなら、その分少し無理してでも私立中高一貫校に入れた方がいいと考える親が増え、小学生からの塾通いなど教育投資が逆に増えたと考えられる。私立受験競争の若年齢化が進み、却って教育費が家庭を圧迫しているというわけだ。
つまり、高校無償化はその本来の目的を達成するよりも、私立の受験戦争を過熱させ、結果として公立高校の「定員割れ」を招く可能性がある。
今の時代、受験生の私学志向は強い。言うまでもなく、それは進学実績を考えれば公立よりも私立が有利と考えられているからだ。確かに東大の合格者ランキングでは毎年トップテンのほとんどが私立高校である。
生徒や保護者が私立に優位性を感じるのも分かるが、本当にそうなのだろうか。そもそも公立の学校と私立学校では何が違うのだろうか。筆者は教員として公立私立合わせて40年奉職し、その両方で管理職も務めた。その経験から公立と私立の違いついて考えてみたい。
私立の「創造的な教育」の理想と現実
学校教育法第一条の規定により、「学校」は国、地方公共団体及び学校法人のみが設置できる。この内、学校法人が設置する学校を私立学校と呼ぶ。
私立学校は民間企業のように思われがちだが、営利目的は許されない。私立学校法でも「公共性」を高めることが定められており、法的にはどちらも同じ「学校」である。
ただ、私立学校はその自主性を重んじることが法に明記されている。そのため公立学校が全国一律に学習指導要領に基づいて教育を行う義務があるのに比べ、私立学校では柔軟にカリキュラムを編成することによって独自の教育理念や特色を反映させた教育を行うことができる。
したがって公立学校が画一的になりやすい日本の教育制度において、私立学校では多様な教育実践が期待される。見方によっては近年の法改正で公教育の統制が強まっている今日において、私立では主体的・創造的な教育を担保する役割を担っているとも言えるだろう。
しかしながら、現実的には私立は財源の多くを集める必要があるため、自主性以前に生徒募集につながる魅力づくりに力を入れなければならない。理想だけでは存続できないのだ。