問題が可視化されれば、リスクに応じた対策も立てることができるようになる。事業不振から負債を背負ったのであれば、経済的な立て直しの支援をする。生活苦があるなら債務整理や生活保護制度などの公的支援策につなぐ。うつ病リスクが高いなら医療機関への受診を勧める。
会社で働いていれば、年に1度行われるストレスチェックを受けたことがあるだろう。人間関係に悩んでいないか、働きすぎで心身に不調をきたしていないか。こうしたメンタルヘルスの悪化に早い段階で気づき、必要な対策を打つことも自殺予防には効果がある。
自殺は政策によって減らすことができる
自殺は人の命にかかわるきわめて「個人的な問題」である。しかし同時に、自殺は「社会的な問題」であり、「社会構造的な問題」でもある。――これは、『自殺対策白書2008』の冒頭で示された言葉である。
現在、自殺は個人の問題であると同時に、社会の問題でもあるという認識が一般的なものとなりつつある。清水さんは、自殺対策に政府の予算が投入されたからこそ、自殺を減らすことができたという。
「現在、9割を超える自治体が自殺対策計画を策定し、国、都道府県、市町村、それぞれのレベルで対策が進められています。警察の自殺統計が公表されるようになったことで、それぞれの地域で、年代や性別だけでなく、職業や同居人の有無等、自殺の特徴を把握することが可能となり、より効果的な支援が実施されるようになりました。
また、そうしたデータの提供や様々な研修会の開催を通じて自治体を支援したり、自殺や自殺対策に関する調査研究を行ったりするための組織『いのち支える自殺対策推進センター』が20年度に立ち上がっています。国も『地域自殺対策交付金』などを用意し、自治体が自主財源と組み合わせながら施策を推進できる仕組みを整えました。こうした地道な取組が実を結び、社会全体で自殺対策を推進するための仕組みが機能し始めています」
自殺は政策によって減らすことができる。このことを、まず押さえておく必要がある。
大人の自殺と子どもの自殺の違い
それでは、なぜ子どもの自殺だけが増え続けているのか。清水さんは、子ども特有の事情があると指摘する。
「子どもたちは、自分で生活環境を選ぶことができません。家庭の経済状況や人間関係など、多くの場合、与えられた環境の中で生きるしかないのです。
そのため、問題があっても簡単に抜け出すことができません。学校でいじめにあったときには、転校や不登校などの解決策もあるでしょう。しかし、家族との関係は避けられません」
子どもが自殺をすると、残された家族や学校に批判の目が向けられる。こうした現実も、問題の解決を難しくしているという。
「学生の“教員離れ”が進むなかで、学校の責任を問えば、問題解決はますます難しくなります。学校の対応には限界があることを理解したうえで対策の枠組みを設計する必要があります」
授業準備はもちろん、児童指導、保護者対応、膨大な事務処理や会議の数々で、現在の教育現場は多忙を極めている。ただでさえ教員に負荷がかかるなかで、担当する児童生徒の自殺予防まで責任をもてというのは酷だろう。