同様に、親の責任を問うだけでは問題は解決しない。清水さんは、子どもの視点で対策を考えていくことが必要だという。
「こども家庭庁が創設されるのと同時に、こども基本法が施行されました。こども基本法では、“こどもの権利を社会全体で守る”という理念が掲げられています。学校や家庭だけでなく、地域が連携して自殺対策に取り組むしくみが求められています」
子どもの自殺予防へ鍵となる基礎データがない
子ども特有の事情は、子どもが抱える問題だけではない。
図5は、清水さんが「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」に提出した資料から抜粋したものである。
大人の自殺対策では、徹底した自殺の実態解明をもとに、実態に即した総合戦略が立案され、戦略を牽引する専任組織が立ち上げられ、戦略を実行するための予算が確保された。この結果、自殺対策基本法が施行された06年と22年を比較して、全体の自殺率は32%減少した。
これに対して、子どもの自殺対策には、いずれも存在しない。この結果、子どもの自殺率は68%も増加している。政府が推進する「こどもまんなか社会」の真ん中に穴が開き、そこに毎年400人から500人を超える子どもたちが落ちて、自殺で亡くなっている。
「文科省やこども家庭庁がそれぞれ自殺の分析を行っていますが、実態把握に必要となる基礎データさえ集めることができていないのです」
子どもの自殺を予防するための鍵となる基礎データがない。にわかには信じがたい現実である。背景には、基本データを収集するしくみの不存在、批判を恐れて情報提供に消極的な教育現場の姿勢、縦割り行政の弊害といった課題が山積している。後編では、子どもの自殺対策が進まない現実について、さらに踏み込んでいく。