大統領有力候補の失墜
この判決に対するルペンの反応はもちろん拒絶だ。判決文読み上げの途中でルペンは退席した。顧問弁護士は控訴の構えを見せ、事態の逆転の勝算はあると断言した。
31日夜のテレビTF1の番組に彼女は登場し、これは「政治決定(判断)」であり、「法治国家は全く侵害された」と怒りをあらわにした。政治生命が断たれる瀬戸際に立たされた形だが、彼女がそう言うのにも根拠があった。
実は、ルペンは今、世論調査では大統領最有力者であるからだ。『ジュルナル・デュ・ディマンシュ(web週刊新聞『日曜新聞』)』の3月29日の記事では、マリーヌ・ルペンはこれまでで最高の37%の支持率を得ている。これは前回22年大統領選挙の第1回投票の時を10%も上回っている。
大統領選挙第1回投票で30%以上の得票を得たのは、近年ではミッテラン大統領(88年34%)、サルコジ大統領(07年31%)で、このままいけばルペンは最大の得票率を記録することになる。ルペンに対する脅威は左右政党で高まっていることは確かだ。
ジョルダン・バルデラ現RN党首は、判決を「デモクラシーのスキャンダル」と痛罵した。つまり自分たちはデモクラシー制度を尊重して、17年と22年の過去2回の大統領選挙でマリーヌ・ルペンは与野党既成大政党の候補を凌駕して決選投票に残るまでになった単独最大政党だ。政治の忖度と司法によって民意を葬ってしまうのか、と言いたいのである。
したがってバンデラは支持者に反対キャンペーンの動員を呼びかけたが、「支持者数が多く(populaire)、平和的な(pacifique)動員」の呼びかけだった。荒々しい暴力沙汰の行動はかえってRNとルペンの印象を悪くするという見方だ。父親から三女のマリーヌに代替わりしてから、この政党は急速に「共和派」「デモクラシー」の政党としての印象を強めようとしている。ルペンの脱悪魔だ(拙書『ルペンと極右ポピュリズムの時代』白水社)。
ポイントは被選挙権の仮執行宣言
ポイントは被選挙権停止だ。議論はもっぱらそちらの方で行われている。
もともと裁判は公金横領の罪状をめぐるものだった。そして公金横領についてメディアは前々からその疑惑を問うていた。犯罪行為の解明が第一だ。そしてその罪がどのような刑に値するのか。
禁固刑・執行猶予・罰金に被選挙権停止の判決に対して、今回は仮執行の措置がついている。仮執行宣言とは、民事裁判の付随宣言で、罪状が最終確定する前に執行することができることを意味する。
普通判決の後、控訴した場合に結審するまで刑の執行はされないので、それまでの政治活動は可能だ。しかし今回は公金横領の刑そのものよりも、ルペンの被選挙権が焦点になっている。つまり2年後の大統領選挙へのルペンの出馬の可能性が真の論点なのだ。
