そうなると完全子会社化したうえで、安心して虎の子の先端技術を供与したり、日鉄の世界戦略に合わせてUSスチールの今後を計画したりしようという日鉄の思惑とはかなり離れた結末になってしまうかもしれない。日鉄にとっては不満だろうが、首脳会談での話題にまでなり、トランプ大統領が動いてこうなった以上、ならやめますということは難しいだろう。それこそ感謝の気持ちがないといわれかねない。
50%未満の株式をまず取得して、その後、実質的に支配権を握るとか、中国の製鉄会社と合弁事業をしたときのやり方を周到するなど、日鉄に秘策があると報じる向きもある。そのような秘策によってまるく収まり、ここで書いてきたような懸念が杞憂であったとなれば、それに勝る喜びはない。
日鉄が立ち尽くすことがないように
その上で問いたいことがある。日鉄はUSスチールの買収を決めたとき、これほどの反響が生じ、莫大な代償を払う可能性が生じると想定していたのだろうか。そしてそれを回避するための、撤退する場合のプランBは用意されていたのだろうか。
一つ間違うと、投資と称して多額の資金を提供させられ、先端技術も供与し、しかし、支配権が得られないまま終わってしまいかねない。買収計画を発表した2023年12月以前には戻れないにしても、バイデン大統領(当時)が禁止命令を出した時に、違約金を払っても買収を取り消しておくべきではなかったのではないだろうか。
その高額の違約金が、豆粒に思えるほどの巨額の「投資」を求められ、虎の子の先端技術すら失って、日鉄が立ち尽くすということがないことを祈るばかりである。