引き継がれる民の力
大阪は最後まで粘れるのか
先人たちが培った〝民の力〟は、現代を生きる安藤さんにも確実に引き継がれている。
2020年、中之島に「こども本の森 中之島」が開館した。壁一面に本が並び、館内であればどこでも、大人も子どもも自由に本を読むことができる文化施設だ。
大阪市中央公会堂、住友グループが設立を支援した東洋陶磁美術館と並ぶこの施設に、安藤さんの大阪への想いが込められている。
「未来を担う子どもを勇気づけようと、設計・建築費とも全て自分持ちで、それを市に寄贈する形で実現しました。それでも子どものためだと思うと、やりがいがある。蔵書、運営費も、在阪企業を中心に寄付をお願いしたところ、610の企業が快く応じてくれました。大阪の誇る〝民の力〟は健在です」
安藤さんには、人間の心の成長にとって、最高の栄養は「本」であるという想いがある。
「本を通じて知的体力を鍛えることが必要です。今の子どもたちは左脳(記憶力)ばかり鍛えられていて、右脳(創造力)を育む機会が足りていない。もっと、世界を広く深く見る力を養わないと。もちろん、身体的な体力も必要です」と話す安藤さんは、09年に胆のう、胆管、十二指腸、14年に膵臓、脾臓と、計5つの臓器を摘出した。
「私は今も朝の6時半には起きて、45分間しっかり歩いています。人生100年時代を、幸せに生き抜けるのは、おもしろいことを探して学び続けるエネルギーがある人。そのためには健やかな身体は必須です」
4月には「大阪・関西万博2025」が開幕、安藤さんはシニア・アドバイザーとして名を連ねる。「万博についていろんな声があることは承知しています。それでも、大阪は最後まで粘り、相撲でいう土俵際の『うっちゃり』で勝つと期待しています。万博が、世界中の人が集まり、異なる文化や価値観が交わる、唯一無二の舞台であることに変わりはありません。会場を訪れた誰もが、新しい発見や気づきに出会えるような万博になることを、大阪の人間として心から願っています」。
大阪や日本、世界は今、既存の価値観が変更を迫られるなど、「大きな転換点」にある。そんな状況を安藤さんはどう見ているのか。
「変わりゆく世界を前に『いかに変わるべきか』『何を変えるべきか』が議論されていますが、私はその前に、『何を変えずに守るべきなのか』を考える時間も必要だと思います。今、時代の変化の中心にあるのは、ITの急激な進化でしょう。しかし、どれだけ技術が進歩しても、人間は自然の中に生きる儚い存在であり、誰かとつながることでしか生きられない──その本質に変わりはないんです。
現在の日本人の一番の弱みは、やはり国際感覚の欠如でしょう。内向きのままでは、これからの世界は生き残れない。元々、資源のない国ですから。この先日本をどうしたいのか。目先の経済効果などでなく、志の高い理想を追いかけていかないと。万博が、人々のチャレンジ精神を呼び起こす追い風となり、大阪そして日本がもう一度、新しい一歩を踏み出すきっかけになれば最高ですね」
