2025年12月6日(土)

Wedge OPINION

2025年4月18日

 余談にわたるが、薄暗いながら荘重な副長官室で行ったインタビューの冒頭、報道担当官や日本担当官らが居並ぶなか、そうしたスタッフ任せにせず、自らコーヒーを入れてくれたことに恐縮したのを覚えている。

錦の御旗として利用されることも

 氏は日本への強い影響力を持っていただけに、その言動が〝錦の御旗〟として利用されることも少なくなかった。日本の指導者らによる靖国神社参拝問題もそのひとつだ。

 アーミテージ氏は副長官退任後の06年7月、この問題について述べたことがある。「戦没者追悼をどうするかは日本自身が決めることだ。中国は日本に対して中止の指示や要求をすべきではない」と述べ、靖国参拝に一定の理解を示した(06年7月20日、産経新聞)。

 しかし、同じインタビューで、靖国の遊就館について「一部の展示は米国人や中国人の感情を傷つける。日本人一般の歴史認識にも反する」と明確に指摘、不快感を示した。

 日本の友人として支持しながら、日本とその近隣諸国との関係が不安定になることを恐れた氏の精一杯の態度表明だった。

 靖国参拝に反対する勢力は、「アーミテージ氏も反対」と叫び、支持派は「理解を示した」と宣伝。米国の公式見解と日本への友情に揺れたつらい選択だったろう。

中国の台頭予測、集団的自衛権容認促す

 アナポリス(海軍兵学校)出身。ベトナム戦争での勇敢な行動で名を馳せ、その後外交界に転じた。

 レーガン政権で国防次官補代理を務め、日本勤務の経験こそなかったが、アジア太平洋の情勢には精通していた。2000年、ジョセフ・ナイ元国防次官補と共同で取りまとめた日米関係に関する「アーミテージ・ナイ・リポート」初版で、すでに日米同盟強化、日本の集団的自衛権解禁を強く提唱した。

 米英同盟のような関係を模索していたといわれるが、中国が台頭、アジア・太平洋における大きな脅威になるであろうことを予測していたようだ。

 自らの信念が日本を動かし、集団的自衛権行使容認など大国として当然の行動の原動力となったが、トランプ現政権の登場で日米関係は今、その変質の可能性が取りざたされている。


新着記事

»もっと見る