2025年12月6日(土)

トランプ2.0

2025年4月22日

 これに反発した欧州連合(EU)は去る9日、ただちに蔵相会議を開催、報復措置として同月15日から対米製品に対する20%の「相互関税」措置を発動することを決定した。トランプ政権に融和的姿勢を見せているハンガリーを除く26カ国がこれを支持した。

 この新たな対米関税は、とくにフロリダ、ジョージア、アラバマといった共和党支持基盤の各州から出荷される鶏肉、米、フルーツ、トウモロコシ、繊維製品、二輪車、電気器具などの産物、製品を主な対象としており、“対トランプ報復”の色彩を濃くしている点に特徴があった。

 その後EUとしては、トランプ政権が中国以外のほとんどの国に対する追加関税の「90日間停止」を発表したのを受けて、報復課税を当面見合わせたが、今後、米側の出方次第では、「相応の対応措置をとる」との強気の姿勢を崩していない。

ロシアの思うツボに

 さらに、欧州諸国の中では、「汎大西洋関係(trans-Atlantic relationship)の終焉」論さえ出始めている。イタリアのナタリエ・トッチ「国際問題研究所」所長は、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで「米欧は大戦後、永年にわたり安保、経済面含め信頼と安定した相互依存関係に支えられてきた。しかし、トランプ政権は一方的に欧州との関係を棄損しつつあり、相互信頼も劣化している」と警告を発している。

 また、EU安全保障関係者の間では、「もはや米国は信頼できる同盟国ではなく、“離婚”もやむを得ない」との悲観論も台頭しつつある。EUが今年に入り、防衛力強化めざし加盟国全体として8650億ドルの追加支出方針を打ち出したのも、こうした流れに沿ったものだ。

 しかしその一方で、米軍事力抜きでの独自防衛能力にも限界があることは、ウクライナ戦争ひとつとっても明白だ。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、現在に至るまでの米国の対ウクライナ軍事、経済両面の支援総額は1828億ドル(米国防総省データ)に達しているのに対し、EU全体の支援総額は1450億ドル(EU事務局公表)となっており、もし、米国が完全に援助を停止した場合、欧州単独ではウクライナを支えきれず、戦況は劇的にロシア側に有利となることは目に見えている。米欧の離間加速は、まさにロシア側の思うツボだ。

 また、欧州諸国の間では、英国のリーブス財務相が去る9日、インドのシタラマン財務相との会談で、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を加速させるなど、米国以外の国との自由貿易協定締結の動きが活発化しつつある。

 しかし、EUや英国にとって、米国は依然として最大輸出国であることに変わりはなく、今後も米欧離反は賢明な選択とは言い難い。

したたかな中国の動き

 いずれにしても、自由民主主義陣営が今、直面する最大の問題は、こうした点も含めグローバルな戦略観がほとんど欠落したトランプ政権の近視眼的“ディール外交”であることに変わりはない。

 大統領が繰り返し「NATO脱退」をほのめかし、欧州諸国や日韓両国など同盟諸国の防衛努力に強い不満を表明してきたのも、すべてが金銭的打算に基づいたものであり、自由主義陣営の結束、民主主義の価値などは常に後回しにされてきた。

 それは去る1月20日、国民向けに90分近くにわたり行った「大統領就任演説」の中に、同盟諸国との連帯、関係強化については一言も言及がなく、自国の「黄金時代到来」に向けた米国第一主義の説明に終始したことにも端的に示されている。

 加えて、無視できないのが、いびつなトランプ外交で生じ始めた米欧離間の流れに対応した中国の動きだ。


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