習近平国家主席は今月14日、トランプ政権の相互関税発動後、間髪入れず初の外遊先としてベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3カ国歴訪に乗り出した。それぞれベトナムは46%, マレーシア24%, カンボジア49%の米国関税の対象国となっており、中国にとって関係テコ入れで恩を売る絶交の機会だ。
まさにアンソニー・ブリンケン前国務長官が、去る9日、NBCテレビ・インタビューで「現政権の近視眼的アプローチは、協力して問題に対処すべき同盟・友好諸国を米国から遠ざけるだけでなく、中国に近づけている」とまさに警告した矢先だった。
軍事面でも、中国は今月初め、台湾海峡で「封鎖能力」を検証するための軍事演習、東シナ海での長距離実弾射撃訓練、主要な港湾、エネルギー施設を模擬目標とした精密攻撃の演習など、第2次トランプ政権発足以来、最大規模といわれる示威行動に乗り出しており、今後、トランプ外交が引き起こす国際情勢の混乱を契機に、中国側の挑発的行動にさらに拍車がかかることも予想される。
日本にとっても大きな懸念
さらに、欧州の米国離れは、日本のアジア太平洋外交にとっても、懸念材料だ。
岩谷毅外相が去る3日、ベルギー・ブリュッセルで開かれたNATO外相会合に出向き、インド太平洋への「NATO関与強化」をあえて訴えたのも、①トランプ政権下の米国がNATOを軽視しつつある②米国以外のNATO加盟国はロシアの脅威拡大に備え自国防衛能力強化を迫られている③このため今後、英仏独など欧州主要国による対アジア関与が減退しかねない――などの懸念が背景にある。
日本にとって、増大する中国の脅威に対処するには、米国のみならず「法の支配」や「自由主義経済」の価値観を共有する欧州諸国との関係強化も不可欠だが、米国が対外コミットメントを縮小し、その上にNATO自体もインド太平洋への関与に余力がなくなるとすれば、地域安保は重大な局面を迎えることになりかねない。
一方、米国にとっても、日欧同盟諸国との関係悪化はけっして歓迎すべきことではない。“唯我独尊”のトランプ外交は根本的に間違っていることは誰の目にも明らかだ。
この点で、バイデン前政権下で国務副長官を務めたアジア通のカート・キャンベル、同国家安全保障会議(NSC)中国・台湾担当副部長だったラッシュ・ドーシ両氏が最新の「Foreign Affairs」(5-6月号)に寄稿した共同論文は注目に値する。
両氏は「中国過小評価—なぜ米国は北京の永続的優位性を帳消しにする同盟協力拡大の新戦略が必要か(Underestimating China―Why America Needs a New Strategy of Allied Scale to Offset Beijing’s Enduring Advantages)」の表題の同論文の中で、中国が人口、巨大市場、工業生産能力、IT・ハイテク先端技術開発の急速な発展、軍事力近代化など、量および質両面で「永続的優位性」を保持していることを率直に認めた上で、米国としては、これと対抗するためには、①米国単独での能力には限界がある②とくに「量=scale」の面で、共通の価値観に基づいたアジア・欧州同盟・友好諸国の強靭な結束と一体化による対処が不可欠――などと、具体的事例や数値を駆使して詳しく論じている。
ただ、「アメリカ・ファースト」に固執し続け、同盟諸国の動揺や混乱をまったく意に介さないトランプ大統領が果たして、こうした警鐘に耳を貸すかどうかは、甚だ疑問と言わざるを得ない。
